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恋人に何度も首を絞められた男が知った真実の愛――爪切男のタクシー×ハンター【第十二話】

三年程経ったある日、彼女が断薬に挑戦すると言い出した。錯乱状態になるなどのさまざまなトラブルが予想されたが、いつにない彼女の真剣なまなざしに負けて、全面的に協力することを約束した。 思ったほどのトラブルが起きないまま、断薬から一週間が経った春の良き日。その日の目覚めは最悪だった。自分の首に感じる異様な圧力で目を覚ました私の目に映ったのは、鬼の形相で私の首を絞めている彼女だった。タイガー・ジェット・シンが必殺技のコブラクローで猪木の首を絞めているのと全く同じ体勢だ。最初は悪夢を見ているのかとも思ったが、私の首に食い込んでくる指の感触、明らかな殺意を感じるその強さが、これが現実であることを示していた。 「やめろよ」 その言葉を口に出そうにも、声が出せない。こんなどうしようもない私にだって夢がある。ところで、私の夢って何だっけか。とりあえず地元には帰りたくないな。そんなに長生きもしたくないが、女に殺されるわけにはいかない。心を鬼にした私は、左手で彼女の髪の毛を引っ張り上げ、右手で骨法の掌底を彼女の顔に打ち込み、何とか脱出した。 私の掌底で、正気を取り戻した彼女は、先程までの鬼のような表情から一変して、子供のように泣きじゃくって私に謝ってきた。
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「ごめんなさい」
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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