お金

3000円のハンバーガー――連続投資小説「おかねのかみさま」

「さて、ガミちゃんから聞いたんだけど、うちで働きたいんですって?」 「はい!!!」 「いままでに経験はあるかしら?」 「居酒屋で3年バイトしてました!こないだまで…」 「そう…じゃあ大体テキパキはできるわね。元気も良さそうだし」 「はい!」 「でもなんで銀座ではたらきたいの?」 「それは…昔から憧れてまして…」 「うそ」 「すいません」 「なんで?」 「その…」 「高い方のハンバーガーでございます」 「ありがと♡」 「すげぇ…」 「あったかいうちにどうぞ♡」 「いただきます!」 「で、なんで銀座ではたらきたいのかしら」 「は、はい。僕、居酒屋でバイトしながらも、自分で起業もしたくって、でもなにから手を付けたらいいのかわからないまま時間が過ぎてたんです。で、いつもお世話になってる先輩とか教授とかに相談しながらモヤモヤ過ごしてたんですが、そんなところに偶然しにがみさんが来て、銀座っていうのは本当にいろんなお客さんが来る場所なんだなーって、すごいなーって思ったんです」 「うん」 「僕は自分から何かをするほうじゃないし、いままで自分の世界が変わったのも進学のときの引っ越しくらいでしたから、なんというか、死神さんのいる世界がとてもうらやましくなって、『いいなー』って言ったんです」 「うん」 「そしたら死神さんが、僕にこう言ってくれたんです」 「ケンタ。イイモンミセテヤル」 「なにそれ」 「僕も一瞬わからなかったんですが、どうやら銀座で一緒に働くことで、僕が見たことない景色を見せてくれるという意味らしく、その場にいた全員が一斉に盛り上がって、そのまま全員で居酒屋に辞表を出しに行ったんです…」 「…」 「店長すごく困ってましたけど、僕がいなくてもなんとかなるのは僕がいちばんよくわかってますし、こうなってしまった以上、僕もあとには引けないという気持ちがありますので、もしよかったら、ぜひ、どうか、なにとぞ、お店で働かせていただけませんでしょうか」 「わかりました」 「!!!ありがとうごじゃいます!!!」 「ちがうの。話の内容はわかりましたって意味。働いてもらうことは構わないんだけど、約束をしてほしいの」 「はい!!!」 「まずはじめに、あなたがあとに引けないかどうか、それと、世界を広げたいかどうか、それはお客さんにとってひとつも関係ないの。お客さんにとって大事なのは気分の良さ。そこにあなたが貢献できるとしたら、気配を消しながら次々と小さな問題を解決する。それだけなの」 「はい…」 「たしかにいろんな世界の素敵なお客さんがいらっしゃるし、もしその中の誰かをあなたが知ってたとしても、その方はあなたのことを知らないの。つまり、あなたの仕事は『なんでもしまぁす!』って言いながらでしゃばることじゃなくて、必要なときに気づいたらそこにいる。ってくらいの配慮なの」 「配慮…」 「ハンバーガー、おいしい?」 「は、はい!すごくおいしいです!」 「よかった。高いお金を払って来てくれるお客さんはみんなニコニコしながらいなくなるから。くれぐれも、出過ぎないようにね」 「はい!え、えっと」 「もし空いてたら今日から研修にはいってください」 「はい!!!!!」 次号へつづく 【大川弘一(おおかわ・こういち)】 1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。 Twitterアカウント https://twitter.com/daiokawa 2011年創刊メルマガ《頻繁》 http://www.mag2.com/m/0001289496.html 「大井戸塾」 http://hilltop.academy/ 井戸実氏とともに運営している起業塾 〈イラスト/松原ひろみ〉
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