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風俗店で一回の射精と一回の恋をして気づく「人を好きになるのに理由なんていらない」――爪切男のタクシー×ハンター【第十四話】

 終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。 風俗店で一回の射精と一回の恋をして気づく「人を好きになるのに理由なんていらない」――爪切男のタクシー×ハンター【第十四話】「理由なんてない!ってことたくさんあるよね」  どんな仕事にも最盛期というものは来るらしく、メルマガ配信にエロ動画紹介サイト運営といういかがわしい仕事をしているうちの会社とて例外ではなかった。社長が業界でも有名なやり手だったのもあり、もともと業績自体は安定していたのだが、海外サーバーの利用や広告収入やらをうまく組み合わせたことで業績が急増した。その影響で全員の給料が二倍になるというバブル期が訪れた。吉報を聞いた我がメルマガ編集部一同は小躍りして喜びを爆発させた。編集長である私の給料は手取りで六十万を超えることになった。社長から「今まで頑張ってくれたお礼で車をプレゼントしてやろう」とありがたい申し出を受けたが、「それなら世界で一番美味しいシーチキンが食べたいです」と丁重にお断りした。やれない女より簡単にやれる女がいい。乗れない車より食べれるシーチキンがいい。  だが、大金を手に入れたからといって必ずしも幸せになれるわけではない。以前にも書いたが、うちの編集部員は私以外は全員ラッパーだった。そんな愛すべきろくでなし野郎共の給料を二倍にした先には悲劇しかない。適量でクスリを楽しんでいた奴はクスリの購入量を増やし過ぎて廃人に、念願の大型バイクを購入した奴は交通事故を起こして両脚を骨折し入院、借金返済を狙って一発逆転のギャンブルに挑戦した奴は借金を三倍にして蒸発した。古いラッパーがこの編集部を去り、また新しいラッパーが補充される。私だけが変わらずにここに居続けている。
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かくいう私とて、経済的安定により心に異常をきたしていた
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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