釜石&大槌ルポ:「和」Ring-Projectの広がる和

◆「和」Ring-Projectとは?

「和」Ring-Project岩手県釜石市・大槌町で行われている「和」Ring-Projectは、「津波で流された家屋や家具の木材を使って、被災者がキーホルダーを制作、被災者が販売することによって産業と雇用を生み出す」というプロジェクト。週刊SPA!2011年12月6日号「週刊チキーーダ!」でも取り上げたが、改めて、詳しく紹介していきたい。

このプロジェクトが特徴的なのは、制作に携わる人間のほぼ全てが被災者であるという点。津波で流された家屋の木材は、工房で切り出し焼き印を押して仮設住宅で待つ内職の方へ渡される。それは、角やササクレをヤスリで磨いて工房に戻して、ニスを塗布。再び仮設住宅に持ち込まれ、ストラップが装着され完成となる。

この一連の工程に被災者自身が携わり、納品時に報酬を受ける。その額は時給に換算して、500~600円程度。「被災者が地元の復興活動に携わることに報酬を渡し、被災者の自立を促すキャッシュ・フォー・ワーク(CFW)の理念をまさに適えた、絶妙な額」(エコノミスト・飯田泰之氏)になっているのだ。

そもそも「和」Ring-Projectは、プロジェクト代表である池ノ谷信吾さん(埼玉県越谷市出身)が、救援物資を届けるボランティア活動をする中で生じたある思いから生まれた。

震災直後から、池ノ谷さんは避難所を何度も訪問。被災者ひとりひとりとの親交が深まっていく中で、「壊滅的な打撃を受けたこの地で、仮設住宅に移った後に収入を得るための産業はあるのか?」との疑念を抱く。

一方で聞かれた、家族や親族を失った方の「家族が身につけていたものがほしい。それを身につければ、共に生きていくことができる」という言葉。

被災者の皆が口をそろえて語る、「ガレキだ、ゴミだというけれど、今まで一生懸命働いてきた財産なんです」という訴え。

これらが結びつき、「和」Ring-Projectが立ち上がったのだ。

キーホルダーの素材となるガレキは、すべて被災された方に許諾をもらい、その本人立ち会いのもと収集される。そのため、誰の家の木材で作られたキーホルダーなのかがわかるという。そして、釜石で収集された木材でのキーホルダーづくりは釜石の方が。大槌で収集されたものは大槌の方が行う。

ちなみに、キーホルダーに焼き印されている「和」の文字も、大槌町出身の書道家・高橋卓也さん(12歳)が書いた作品だ。

実際に、このキーホルダーづくりに携わっているお二人の方に話を聞いた。

◆「それまでは時間を持て余していたから」

沖哲子さん

地震発生時は自宅にいて、「ただただ、揺れが恐ろしかった」と語る。その後、津波が来たという知らせを聞いて、近所の神社まで避難。「その前後のことは、記憶にないんです」

「キーホルダーづくりを始めたのは、7月の末くらいかしら。たまたま、自宅のガレキを主人と片付けているときに、池ノ谷さんが通りかかったんです。避難所にも何度も足を運んでくれていたから、すっかり顔見知りになっていたので、『うちの仮設、近くだから、ちょっと寄ってかない?』って声をかけたんです。そのときにお話を聞いて、「やってみようかな」って。

そう語るのは沖哲子さん。現在、仮設住宅にご主人と二人暮らしをしている。

それまでは、時間を持て余していたのもありました。かといって、必死にやるわけでもないんです。まったくやらない日もあります。2種類のヤスリで角に丸みを出して、ささくれを取りながら、『どういう人が持ってくれるのかな』って、考えながら作業しています。記念にしたいとか、お守りにしたいとか、これを持つ人の思いもいろいろだから」

そう語る沖さんのカバンには、ご自宅のガレキで作ったキーホルダーが揺れていた。

◆大槌出身の妻とは別作業です(笑)

佐々木秀樹

ご自宅のガレキを使ったキーホルダーを奥様と一緒に作ったという佐々木さん。「とても、堅い木で、「『誰の家の木だよ』なんて言いながら作りました」

佐々木秀樹さんは、震災後、勤めていた会社から転勤の話があり、「この町で生きていく」という思いから、離職を決意。このプロジェクトでは、キーホルダーの制作とともに、ホームページの運営も担当している。

「最初、池ノ谷さんにプロジェクトのお話を聞いたとき、竹でできたキーホルダーを見せてもらったんです。その竹は、津波で塩水をかぶったために色が抜けてしまっていて、池ノ谷さんが、『塩水をかぶった竹は少ないから、作れる数は限られるんだよね』みたいなお話をされたんです。そこで私は冗談で『その辺の竹を切って、海水につければいいじゃないですか』って言ったら、池ノ谷さんが本気で怒られたんです(笑)。『それじゃあ、意味がないんだ』って。そのとき、『この人は本気なんだな』って思って、参加することに決めたんです」

佐々木さんの奥様もこのプロジェクトに参加している。しかし、奥様は大槌町出身のため、大槌のキーホルダーを手掛ける。一方の佐々木さんは釜石出身なので釜石のキーホルダ。夫婦でも、そこがきっちり分けて作業をしているという。

「小さい町です。どのお宅からの木材なのかがわかるようになっていますから、『誰々さんのお宅のなんだ』とか、ひとつひとつ思いながら作ってます。

夜、仕上げたものを、翌朝、納品前にもう一回見るじゃないですか。そうすると、昨日は許せたのに『これは、ダメだ』って思うものがあるんですよね。だんだん、自分の仕事に厳しくなっちゃって(笑)。逆に、『これは!』と思う会心の出来のものもあるんですよ(笑)」

 「和 Ring-Projectは命名した私たちも驚くほど、その名の意味を体現し、人から人へのつながりを生んでいる。みなさんがこのキーホルダーを手に取ってくださることは、私たちにとって、新しい繋がり(リング)が生まれていくことでもあります」と、プロジェクト代表の池ノ谷さん。

その池ノ谷さんは大槌町に移住。この地に生まれ育っている“和”のさらなる広がりを、被災者と共に進めている。

飯田泰之,荻上チキ

沖さんの住む仮設住宅にお邪魔して、飯田泰之氏と荻上チキ氏もキーホルダーづくりを体験。「夢中になっちゃうね」と飯田氏

取材・文/鈴木靖子 撮影/土方剛史

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