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「どうなったか見たい?」彼女は私のボーナスで女性器を手術した――爪切男のタクシー×ハンター【第三十話】

 終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。 【第三十話】人間は機械には負けない。バカは強い。  彼女が泣いている。  床に頭をこすり付けながら土下座をして、私に許しを請うている。私達が同棲をスタートさせて、もう五年以上経つが、ここまで彼女が感情を露わにして泣くのは初めてかもしれない。私が帰宅した直後から、彼女の様子はおかしかった。部屋の中をせわしくなく歩き回り、突然立ち止まっては手の爪をカチカチと噛み、身体を小刻みに震わせていた。不眠症にパニック障害という心の病を抱えていた彼女。ちょうど断薬に挑戦をしていた時期だったので、その副作用が起きているなと思い、彼女の身を気遣う言葉をかけた。その瞬間、ダムが決壊したような勢いで彼女は泣き始めてしまった。彼女の頭を優しく撫でながら、両肩をそっと抱きしめて、心が落ち着くのを待ち続ける。一時間ほど経過して、平静を取り戻した彼女がポツリとつぶやいた。 「もらったお金をマンコの手術に使っちゃった。本当にごめんなさい」 「……マンコの手術?」  パソコンの音楽ソフトを使って作曲をすることが趣味だった彼女から「新しい音楽ソフトが欲しい」と言われたのは一週間ほど前のことだった。ボーナスが支給されたこともあり、家計は充分潤っていたので、彼女に十五万円を渡した。その大金が女性器の手術代に消えたそうだ。恥ずかしながら、当時はセックスレスに陥っていたのもあり、愛する女がどんな女性器をしていたのかがおぼろげにしか分からなかった。ただ、早急な改造手術を必要とする物騒な代物ではなかったはずだし、この手術代が妥当な金額かどうかすら分からないし、やっぱり十五万円は大金だし、何より嘘をつかれたしで、一瞬頭に血が上りそうになったが、こんなに泣きながら「マンコ」と言う女を初めて見たし、こんなに可愛く「マンコ」と言える女を初めて見たので、彼女を笑って許すことにした。 「……怒らないの?」 「……びっくりしたけど、面白かったからいいよ」 「……」 「……」 「……怒ってもいい時に怒ってくれないし、怒って欲しくない時に限って怒るよね」 「そうかな」 「そうだよ」 「……」 「……」 「どんな手術したのか教えてくれる?」 「……手術をした理由は聞かないの?」 「理由より内容だ」 「……」  ふっくらとして厚みのある場所、いわゆる大陰唇。そこにあったイボの塊が徐々に成長し、小指の先から第一関節ぐらいの大きさ、ひょいっと手で摘まめるほどの大きさに急成長してしまったそうだ。イボは脂肪の塊であり、しわしわの見た目は歌舞伎揚げ、プニプニした柔らかい触感は果汁グミによく似ていたらしい。一度しっかりと触ってみたかった。  彼女の説明を聞いて、確かにそんなイボがあったことを思い出した。しばらく見ないうちに、あのイボがそこまで育ったのか。久しぶりに会った甥っ子の成長に驚く親戚のおじさんのように私は感動した。と同時に、セックスレスとは言っても、日々の生活の中で、たまに彼女の裸を見ていたのに、その変化に気付かなかった自分を恥じた。
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最初は気にしていなかったが…
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

⇒立ち読みはコチラ http://fusosha.tameshiyo.me/9784594078980

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