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自衛隊は「情報開示請求のできる行政組織」であり、軍事組織ではない

「自衛隊ができない30のこと 10」

陸上自衛隊

陸上自衛隊HPより

 先般、稲田(元)防衛大臣がPKOの日報開示請求の対応で責任を問われ、陸幕長、事務次官などとともに辞任しました。世界の安全保障の常識から考えればPKOの活動で戦闘行為があったかどうかが問題とされることがすでに異常なのですが、自衛隊は「軍(軍のようなもの)」に見えたとしても、国内法でその組織は一般の「行政組織」です。悲しいことですが、自衛隊は「軍のような外見」をしていても決して「軍事組織」ではないということが今回の日報開示問題ではっきりしたと思います。  やはり、「陸海空その他の戦力はこれを保持しない」と日本国憲法9条に明記されている状況で、「軍事組織をつくってはならない」というルールの下に作られた組織では「軍事組織」が持つべき重要な秘密保持の仕組みは持てなかったわけです。  それでも自衛隊は以下のとおり軍としての体裁をととのえていますから、国際法上は「軍」として扱われます。 ①遠方から識別可能な固有の徽章を着用していること(固有の軍服を着用) ②武器は外から見えるように携行すること ③団体の場合は、必ず指揮者つまり責任者がいること ④その動作において、戦争法規を遵守していること  これがハーグ陸戦条約で規定されている交戦者の資格とされています。この要件をそろえている自衛隊は海外の他の軍から見たときは「軍」です。しかし、日本国内の自衛隊の取り扱いは、あくまでも他の省庁と同じ行政組織の一つなのです。  これは非常に深刻な問題です。  意外かもしれませんが、自衛隊にはすさまじい数のデスクワークが存在します。特殊車両を動かすためには道路を通る特別な許可が必要ですし、航空機が偵察やスクランブルなどの行動を起こすときも飛行計画を出しています。危険物取扱、消防法などなど無数の法律の規制に対し、他の行政組織と同じように手続きをして許可を得て行動しています。つまり、自衛隊の行動は無数の書類に縛られ追い回されているのです。ゆえに、他の行政組織と同じように法律の手続きに不備があれば行動ができなくなります。これは防衛出動時や治安維持活動の場合でも変わりません。さらに、近年では民事訴訟というリスクに対応するため、その行動の裏付けとなる証拠書類を準備し、記録を改ざんできないよう整理保管するようになっています。イザという時にマスコミや政府に説明するための記録を徹底的にとるのです。  情報開示請求の根拠となる情報公開法は「省庁等行政機関の保有する文章等の情報はすべて開示すべき」という発想で作られています。2014年12月10日に特定秘密保護法が施行されましたが、この法律で保護されるのは潜水艦や衛星写真などの最も機密とされる情報のほんの一部のみです。「軍」ならばその行動予定だけでなく、行動記録などを含めもっと広い範囲での秘密保持ができなければ作戦行動に支障をきたします。そもそも、防衛や外交など機微に渡る文書は原則非公開にするべきと国際社会では考えられています。何十年か後に然るべき手続きを経て、防衛外交上の文書は再度公開すべきかどうかを検討するというような方法が世界のスタンダードです。  つまり、秘密保持よりも透明性と国民への説明責任の方が重視される組織なのです。防衛省(自衛隊)は軍事組織とは全く違う仕組みで動いているのです。  問題が起こったときに事態を説明するための膨大な記録を残していく必要があるのは自衛隊が行政組織だからです。それゆえに詳細な情報が書類として蓄積されていることも明らかになりました。さらに、自衛隊の行動記録が知りたければ開示請求すればその情報が入手できることも世界中に報道されました。また、その開示方法や開示内容に不備があれば、軍事組織のトップ、陸上幕僚長や防衛大臣を即座に辞任させてしまえる脆さも明るみになりました。
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