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サンキュータツオ「自分を見失った人の熱量はおもしろい」

― 世界の[トンデモ研究論文]大集合(4) ―

漫才師。コンビ・米粒写経での活動のほか、日本語の表現論の研究者として一橋大学で非常勤講師も務める。パーソナリティを務めるポッドキャスト・東京ポッド許可局では8月28日に『日比谷公会堂に2000人集めたい論』を開催

◆おもしろ論文の著者はオタクの鑑ですよ! 「一体誰が何のために……」と疑問に思えてならないおもしろ論文は、どのようにして生まれるのか。お笑い芸人にして、自身も研究者であり、「おもしろ論文探索」をライフワークにしているサンキュータツオ氏に話を聞いた。そもそも、なぜ、おもしろ論文好きに? 「自分の研究領域の論文を読むのが嫌になったときに、全く関係のない分野の論文雑誌を読んでみたんです。そうしたら『これでメシ食ってるのが許せない!』と普通なら怒りかねないほど、ニッチな研究をしている人がたくさんいて。自分の興味があることをただ純粋に追究している人も多かったので、同じ研究者として勇気をもらえた。これでいいんだと(笑)」  そんなサンキュー氏のおもしろ論文コレクションには「傾斜面に着座するカップルに求められる他者との距離」「女子短大生の餅の喫食状況」など衝撃的なものがズラリ。このような論文が生まれる背景について、研究者の立場からこう分析してくれた。 「学者の命は問題設定。そこがほかの論文と被ってしまえば研究の意味がありません。そもそも、彼らは役に立つということに興味がなく、それよりも、『新しさ』が大事。『女子短大生~』は類似の研究がなければ、資料として後年まで残ることになります。極端な話、『正月によく食べられていた』でも、100年後に価値が出るかもしれませんから(笑)」  また、おもしろ論文の誕生には、その論文が掲載される雑誌も大きく関係しているという。 「メジャーな学術雑誌は研究者数人の査読を経て掲載論文が決まるので、ニッチなものは掲載されづらい。一方で大学の紀要は教授一人の許可で掲載が決まることもあり、おもしろ論文が載りやすいんです。特に女子大の紀要は、おもしろ論文の宝庫ですね。『卒業間近の看護短大学生が学習不足だと思う看護技術』というような『載せて大丈夫か?』という論文に出合えることもありますよ(笑)」  ブログで取り上げたことがきっかけで、おもしろ論文の書き手と会う機会もあるというサンキュー氏。彼らはどんな人間なのか。 「『おもしろ論文』なんて紹介をしたから怒られるかと思ったら、みんな喜んでくれるんですよ。専門領域以外の人に読んでもらえるのが嬉しいんでしょうね。『自分はくだらないことをやっている』という自覚がある人もいるでしょうし、周りの研究者や学生にも興味を持ってもらえず、なかには家族からも迷惑がられている人もいるでしょう。自己顕示をすることもなく、純粋に自分の興味だけで研究を続けては、一人でニヤニヤしているわけですよ。それってオタクの鑑じゃないですか! 手段として研究があったはずなのに、その手段が目的化してしまう。自分を見失った人の熱量はやっぱりおもしろいですよね。そう考えると、『~の役に立つから』なんて理由で研究をしている人が逆に不純に見えてきます(笑)」 ※日刊SPA!ではサンキュータツオ氏オススメのおもしろ論文を紹介 取材・文/田山奈津子 古澤誠一郎(オフィス・チタン)牧 沙織 鈴木靖子(本誌) 撮影/山形健司 イラスト/坂川りえ
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