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群馬県・前橋中心街が、今なぜかアーティストだらけの強烈な個性の街に

 群馬県の県庁所在地、前橋市。詩人・萩原朔太郎の生家があり広瀬川が流れる市の中心街は、今、アーティストたちがさまざまなことを企む面白い街になっている。

広瀬川のほとりにたたずむ萩原朔太郎の像

 中央前橋駅から広瀬川沿いに北西方向へのんびりと散歩しだすと、200メートルほどで最近移築された岡本太郎作の「太陽の鐘」が見えてくる。そこからほんの150メートルほど歩けば、萩原朔太郎の銅像が目に入る。周辺には朔太郎の生家が移築された記念館や文学館がある。そこからほんの少し歩き、弁天通りというアーケード商店街へと左に曲がると、ほどなく右手に大蓮寺というお寺が見えてくる。

2018年の春の木馬祭りのために大蓮寺に集まる人々 2018年4月29日撮影

 この大蓮寺を出発地として、毎年春と秋に「駅家ノ木馬祭(うまやのもくばまつり)」という街中を練り歩くお祭りが開かれている(今年の春の木馬祭は4月29日に開催)。法被を来た数十人の人々が「木馬だ、木馬だ、ダーダーダー」と掛け声を発しながら、木馬を引いたり、馬の顔がついた棒を天に向かって突き上げながら、ゆっくりと歩いていく。

2018年の春の木馬祭りの様子。大蓮寺を出発し、利根川に向かう

 この地で長く続く伝統行事……と思いきや、実はこれは芸術家でダダイストの白川昌生さん(71歳)が2011年から始めた「継続的アートパフォーマンス」だ。「ダダイズムの『ダダ』という言葉の発祥の地は前橋」(本当はスイス・チューリヒで、1916年にトリスタン・ツァラが命名した)という「フェイク昔話」を基に構築されている(本当はもっと長い、いろいろと虚実ないまぜの物語がある)。参加者でそのことを知っている者は「100年後ぐらいまで続いて、本当に何百年も続く伝統行事と勘違いされたら面白いですね」とニヤリと笑い、そのことを知らずに動員された参加者は「なんだかよくわからないけど、とりあえず誘われたんで」とついさっき教えられた掛け声を小さな声で発しながら歩いている。

木馬祭りを生み出した芸術家でダダイストの白川昌生さん(中央)

ただの軽トラかと思いきや路上展示。かつてあった「四色問題」をテーマにした作品とは?

 この大蓮寺から、弁天通りを北に戻り大通りを渡ったところに、最近まで派手な4色のケースがブロックのように積み上げられた軽トラックがあった。実はこれもアート作品で、芸術家の小野田賢三さん(57歳)の手によるものだった。写真をご覧になられると「何がアートなんだ?」とお思いだろうが、実はこれはカラー印刷の基本であるCMYKのことや、「四色問題」をテーマにしたアート作品だそうだ。青、赤(ピンク)、黄色、黒の「ブロック」たちは、隣に同じ色のブロックが来ないように配置されている。位相数学だの位相幾何学だのというジャンルの問題で、数学者たちが100年ぐらいかけて証明してきたものらしいが、そんなものがポンと街中に展示されていた、というわけだ。3月上旬に前橋に行ったときにはなぜか解体されていたが。

路上に展示されていたのか、ただ駐車されていたのか定かではないが、長らく設置されていた小野田賢三さんの作品 2018年4月29日撮影

これらの「ブロック」は「同じ色が境界を共にしない」という「四色問題」をテーマにしているらしい 2018年2月11日撮影

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前橋は「昔のベルリン」みたいな街!?
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※ジル・スタッサールの個展が群馬県前橋市で開催中
ya-gins vol.33 Gilles Stassart「Genealogy」
会場:ya-gins
住所:〒371-0022 群馬県前橋市千代田町3-9-2弁天通りアーケード内
会期:2019年4月28日まで
オープン毎週 金・土・日曜
時間:13:00-20:00
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