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<純烈物語>成長したからこそわかる「幸耕平さんが僕らをミュージシャンにしてくれたんです」<第51回>

純烈大江戸無観客

<第51回>「幸さんが、僕らをミュージシャンにしてくれたんですよ」(酒井一圭)

 2017年あたりから酒井一圭は、本格的に紅白歌合戦を狙うためのホップ・ステップ・ジャンプ想定し、純烈というプロジェクトを高めていった。レコード会社はどの作家を起用するか考え、かかわる人間の士気も上昇していく。 「それに耐え得る作家さんというのが、おのずとあぶり出されるわけです。レコード会社の方で出た『今の純烈だったら幸さんじゃないの?』という話が僕のところまで降りてきた。でも、その時点ではどれほどの方なのかなんて僕にはわかんないわけですよ。なので、スタッフが持ってきてくれたことを信頼してやるしかない。  そうなった時点で、僕の中では幸さん一点になりました。アタックした時点ではOKしてくれるのかわからなかったけど、OKしたということは純烈のことを面白そうだと思ってくれているんだろうなと受け取りましたね」  前回、トータルプロデュース気質という点で幸耕平先生(以下敬称略)と酒井は共通していると書いた。じっさい、すべての権限を託されたからこそ、それまで接点がなかったグループのために腰をあげた。  純烈において全権を揮う酒井ではあるが、作家のオーダーに関してはデビュー以来、自分で指定したことはない。楽曲という、紅白を目指す上で根幹となる部分にもかかわらずだ。  自分の持ち札が及ばないのであれば、ほかに任せることでその力量を引き出せる。さらに言うならすべてを思い描くよりも、描かなかったシチュエーションを楽しんでしまう。酒井はそんな性分にある。 「マッスル」のリングに上がる時もそうだった。話が来た時に「プロレスラーになれるわけないだろ!」と断っていたら、マッスル坂井(スーパー・ササダンゴ・マシン)とも出逢っていなかった。他者に委ねることで得られる新たなる邂逅……それをこよなく愛しているのだ。 「レコード会社一つをとっても、その人たちが動いてくれることによっていろんなクリエイターと出逢えるわけじゃないですか。自分が会いたいと思って、そのために直接オファーしたり、近しい人に寄っていったりするのではなく『このタイミングで会えたか!』という方が僕はたまらないんで。自分の考えたルートじゃない出逢いの方が面白いんですよ。  幸さんにお願いすると決まったあと、たまたま歌番組でお弟子さんにあたる田川寿美さんと隣同士になった時、幸さんがすごいのはトータルプロデュースができるところと聞いたんです。その瞬間、これは丸投げするのが一番いい形になると思いました」  人を選んだところで、メロディーやリリックについては指定できない。だったら最初から自分で作ればいいというオハナシだ。純烈がやるべきは、託された楽曲の質や完成度をより上げて、売ること。  各セクションのスペシャリストによって、作品が磨かれていく。その意味では、アレンジャーの存在も大きい。  『プロポーズ』のデモテープが上がってきて、最初に聴いた時はどう感じたかを問うと、酒井は正直に「この曲が大化け(ヒット)するかどうかは、わからなかった」と答えた。そこは「一発で売れると思った」などと言わない。  「人間ならわかるんですよ。こいつは売れる売れないとか、どれぐらい耐えられるかとかの洞察は経験値をもとに見えるんだけど、こと音楽に関しては今でも僕は勉強中で。幸さんからデモを渡された時点で、そのすごさを理解できるような人間じゃないです。仔馬の頃のディープインパクトを見て『これは将来名馬になる!』なんていうイメージは湧かない。ただ、説明はできないんだけど確かにキャッチーだしフックもあった。
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『プロポーズ』のイントロを聞いた瞬間、浮かべた会心の笑み
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