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スタバ、NewsPicks…人間のマウンティング欲求を満たすビジネスの仕組み

 マウンティング、それはビジネスでもプライベートでも有効に活用すれば自分自身の生活の幸福度を格段に高めてくれる、古来から常に存在し続けていた人間関係における必須のコミュニケーションの一種。  マウンティングポリス連載の第三回では、インスタ映えなどで想起される「マウンティング欲求」を起点にした革新的なビジネスアイディアを着想する方法についてお届けします。
マウンティングポリス

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 マウンティングが革新的なビジネスアイディアを着想するうえで有効な手段になるとはどういうことか。今回は、この辺りについて、国内外の代表的な事例をいくつか列挙した上で、マウンティング欲求を起点にイノベーションを創出する方法について考えていきたいと思います。

優れたサービスは人間に内在する根源的なマウンティング欲求を踏まえた形で入念に設計されている

 優れたイノベーションの多くは、人間に内在する根源的なマウント欲求を踏まえた上で、「この先進的なサービスを使っているイケてる俺(私)」というマウンティングエクスペリエンス(※ マウントを通じて得られる至福感、多幸感、恍惚感のこと)を顧客に対して提供することに成功しています。以下では、このポイントについて詳細に説明すべく、具体的な事例をいくつか挙げてみたいと思います。

Starbucks Coffee

Starbucks Coffee

写真/Adobe Stock

 まずは皆さんにもお馴染みの存在であるスターバックスコーヒー(以下、スタバ)。多くの人々から愛される世界的コーヒーチェーンとして知られるスタバですが、毎日スタバを利用している立場として感じるのは、スタバが顧客に対して提供している価値は、コーヒー(だけ)ではなく、社会学的な見地から言えば、「サードプレイス(コミュニティの核となるとびきりの心地よい場所)」、(※参考『サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』レイオルデンバーグ著)マウンティング的な見地から言えば、「米シアトル発祥のカフェでMacをカタカタしながらクリエイティブな作業に取り組んでいる先進的な俺(私)」という名のマウンティングエクスペリエンスなのではないかということです。  事実、創業者のハワード・シュルツ氏は同社の創業の背景について、「本当に作りたかったのは、居心地の良い場所。深煎りコーヒーだけではありません」と述べており(※参考『It’s Not About the Coffee』著ハワード・ベハール)、同氏が優れた経営者であると同時に、卓越したマウンティングエクスペリエンスの設計者であることが示唆されています。

NewsPicks

 世界中に存在する数多くのメディアの中で、最も秀逸なやり方でマウンティングエクスペリエンスを提供しているメディアの一つがNewsPicksです。NewsPicksは、伝統的メディア出身の実力派の記者達によって制作された見応えのあるコンテンツで高い評価を得ていますが、これに加えて、高度な専門性を備えた有識者による高品質なコメントがNewsPicksのメディアとしての価値の源泉になっているのではないかと個人的には考えています。  そしてもう一つ思うのが、この有識者による高品質なコメントを生み出すための手段の一つとして、NewsPicksでは有識者に対して「プロピッカー」という名の栄誉を与えることによって、高品質なコメントが有識者から自動的に集まる仕組みを構築することに成功しているということです。  要するに、NewsPicksはプロピッカーに対して社会的な栄誉という名のマウンティングエクスペリエンスを提供し、高品質なコメントを集めることによって、メディアとしての価値を飛躍的に高めることに成功しているのではないかということです。  実際、プロピッカーに選ばれた我が国を代表するエリートの多くが、「有難いことに」「ご縁をいただきまして」「僭越ながら」等と恭しく前置きをしつつ、プロピッカーとして選出された事実を一般層に向けてアナウンスしている光景を皆さんもご覧になったことがあるのではないかと思います。このような背景を理解した上でNewsPicksを利用すれば、また新たな発見が得られるかもしれません。ちなみに、NewsPicksのプロピッカーになることを目指す場合、Quoraの記事「NewsPicksのプロピッカーにはどうすればなれますか?」が参考になると思います。

WeWork

 最後に、世界的に著名なシェアオフィスとして知られるWeWorkの事例を紹介したいと思います。創業者のスキャンダルがあったりコロナ危機があったりで、以前と比べると、同社に対する批判的な記事も最近は見られるようになりました。 ・ウィーワークの魔法に騙されるな(2019年8月29日 日経ビジネス)ウィーワークの新規オフィス契約が激減、米国では4件のみに(2020年1月17日)ウィーワークを大企業社員が結局退会した理由、孫氏肝入りオフィス事業の危うさ(2020年2月8日)  とはいえ、1年前まではベンチャー界隈や自分はアッパー層であると自認するビジネスパーソンの間では、 「WeWork丸の内なう」 「WeWorkはオフィスという概念を再発明したよね」 的なマウンティングフレーズがSNS上で飛び交っていました。中には、自分がWeWorkに滞在していることを直接的には記載せずに、WeWorkの文字が書き込まれたマグカップをスマホで撮影してSNSにアップするという非常に用意周到なマウンティングも数多く見られました。  私自身、WeWorkの雰囲気はかなり好きで、たまに遊びにいく際に内部の様子を観察するのですが、その度にWeWorkが提供している価値はオフィススペースだけではなく、「WeWorkにオフィスを構えるという先進的なライフスタイルを享受している俺(私)」というマウンティングエクスペリエンスなのではないかという思いを強くするのです。  資本市場をハックしたと言われるウィワークですが、実は、マウンティング欲求をハックすることにも成功していたのかもしれません。
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マウンティング欲求からアイディアを着想するコツ
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