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「72+41=10013」は正解?学校教育が子どもの個性と多様性を奪っている

 突然だが、あなたは次の2つの問題を見て「どっちを先に子どもに教えるべき」だと思うか? ①「ひゃくじゅうさん」と聞いて数字で書く ②「72+41」の足し算の答えを出す  正解はともに「113」だが、恐らく、多くの人は①と考えるのではないだろうか。「三桁の数字が書けないのに三桁の足し算の答えが出せるはずがない」と考えるからだ。しかし、ある子どもの解答用紙を見てほしい。

下から二段目に72+41の答えが「10013」(赤字は子どもが書いたもの)と書かれている

 解答欄を見ると「72+41」の答えに「100」と「13」を並べて「10013(ひゃくじゅうさん)」と書いている。そう、この子どもは②はできるのに①はできなかったのだ。 「つまり、言語処理能力や文字を書く能力と計算処理能力は、基本的に別物と考えないといけないのです。この子はいつも親御さんからから出される足し算、引き算の問題を口頭で答えて、ゲームとして遊んでいたそうです。しかし、いざノートに書こうとすると3桁の数字の書き方をまだ覚えられていないので、書けない。これがもし学校のテストなら、答えを理解しているに不正解になるでしょう」  そう話すのは、発達障害特性が見られる子どもたちの学習支援に長く携わっている、臨床心理士の村中直人氏だ。こうした例は決して珍しくなく、多くの子どもたちが直面する困難に気づいた彼は今、「ラーニング・ダイバーシティ(学びの多様性)」という概念を強く提唱している。

臨床心理士の村中直人氏

子どもたちの学び方は、一人ひとりが個性的で多様

「私たちは2008年から『あすはな先生』という事業を通じて、発達障害圏の子どもたちを含む多様なニーズのある子どもたちの学習支援をしています。発達障害というのは、言うなれば“個性が人一倍強く出る子たち”で、みんな特別な教育ニーズを抱えています。  先ほどお伝えした算数を解いた子もその一人でした。そういった子らと接しているうちに、『子どもたちの学び方は、一人ひとりが個性的で多様だ』と気づいたんです」  例えば、発達障害の一つである学習障害(LD)のある子どものなかには、問題を頭のなかでは理解していても「書くこと」ができないケースがある。答えの書き方を誤ってしまったり、書きながら解く過程でミスをしたりしてしまうのだ。  村中氏が出会ったある中学生は、数学の問題を「文脈を読み解く」ことで解いていた。「鉛筆を1人5本ずつ配ると20本余り、6本ずつ配ると15本足りない。このときの生徒の人数を求めなさい」という問題を、計算式を使わずに問題文から答えを予測して解いていたという。 「この子は方程式を使わないのに、正解を出せるんです。『どうやっているの?』と聞いてみれば『答えを予測して代入している』と言う。まず『余りの数が15~20本なので答え大きいな、だいたい35人ぐらいじゃないかな』と考えて、そこから代入して、合わなかったら次の数を入れて……と、暗算で確かめているそうです。  学校の公教育ならば式が書けないのでダメです。しかし、それでも答えはちゃんと出せるし、解いていくうちに予測精度が上がっていくからボンボン答えられるようになっていくと。彼は『俺、式を書いたほうがミスるねん』と言っていました」
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「ラーニング・ダイバーシティ」という概念の誕生
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