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関西人の間で「知らんけど」が流行るワケ。日本語研究者に聞いてみた

 先日大阪に出張した際、耳に残る関西弁に出くわした。「知らんけど」だ。仕事相手にこれからの方針を尋ねたり、タクシーの運転手とうわさ話で盛り上がったりする中で何度も聞いた。生まれも育ちも関東人の筆者(私)は「結局知らないのかよ(汗)」と戸惑いを覚えたと同時に、このワードが使われると場の雰囲気がパッと明るくなるのを感じた。  お笑い芸人の「かまいたち」の冠番組でも題名に使われ、今やSNSの急上昇ワードにも出てくる「知らんけど」。一体どんな意味で使われているのか? その謎を解明すべく、日本語研究者で大阪大教授の金水敏氏に話を聞いた。

関西出身の友人「僕らにはなくてはならないもの」

駅

駅内にも笑いを愛する関西人の気質がちらり

 まず「知らんけど」を使った例文をいくつか出してみたい。 「菅野が巨人残留するようだけど、来季は藤浪が完全復活するから阪神がV奪還や! 知らんけど」 (意味:今オフでメジャーリーグ行きを宣言していた巨人の菅野智之が残留となったけど、球団史上最速の162キロを記録して制球力も安定した藤浪晋太郎が完全復活を遂げてセリーグ優勝や! 知らんけど) 「フワちゃんのため口は絶対キャラやって! 知らんけど」 (意味:人気ユーチューバーでタレントのフワちゃんのため口は、破天荒キャラクターを演出するためにやっているよ。絶対に。知らんけど) 「明日は晴れかもしれへんし、雨かもしれん。知らんけど」 (意味:明日の天気は晴れか雨かのどっちかだと思う。知らんけど)  3つに共通するのは、結局の所は知らないということだ。真相はどうなのかはさておき、積極果敢に会話を展開して場を盛り上げようとする意欲がにじむ。関西出身の友人に聞いてみたところ、「(「知らんけど」)日頃からあまりにもよく使うため意識していなかったけど、僕らの会話にとってはなくてはならないもの」と受け止めていた。

日本語研究者の金水氏「免責を得たい意思表示でもある」

金水敏

日本語研究者で大阪大教授の金水敏氏

「関西人の気風が現れる言葉の一つ」と指摘する金水氏。近年ではメディアでも「知らんけど」にまつわる歴史が注目されているといい「もともとは『よう知らんけど』という形で親しまれてきたのが、今では最後に付け加える形になっています」と分析する。  関西と言えば、「ボケとツッコミ」「話に必ずオチを付ける」のイメージがあった筆者(私)。「知らんけど」もその文化を受け継いでいるように見えると尋ねると、金水氏はこう力説した。 「関東にもプロのお笑いの方がいますが、関西には街の至る所で話芸に長けたセミプロのような方がたくさんいるんです。日頃から会話の端々で話のオチが求められる状況の中で、正確性よりも相手を楽しませようとすることに重視してしまう人は少なくありません。実はよく知らないことでも面白おかしく話を展開して最後に『知らんけど』と付け加えることで、免責を得たい意思表示でもあると言えます」(金水氏、以下同)
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普段のおしゃべりでは、話7、8割程度で聞く
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