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コロナ危機が暴いた日本の没落<日本総合研究所会長・寺島実郎氏>

進行する「日本の埋没」

コロナウイルス

写真はイメージです

―― コロナ禍が始まってから1年半が経ちます。現在の状況をどう見ていますか。 寺島実郎氏(以下、寺島) 今年5月末で、日本国内で初めて感染者を確認した昨年1月から500日が経ちました。私たちはここで「コロナ500日」を総括する必要があります。  重要なことは、問題はコロナそのものにあるのではなく、コロナがあぶり出した日本の構造的な課題だということです。結論を先に言えば、今の日本には物事の本質や全体像を体系的・構造的に捉える「全体知」や課題解決のための「総合エンジニアリング力」が決定的に欠落している現実が暴かれたのです。  まず政府にはこの500日の政策を総括して国民に語る責任があります。しかし、政府はそういう政策科学的な説明や総括を一切することなく、ただ緊急事態宣言の延長の可否を判断することだけが政策決定であるかのような錯覚に陥っている。このような迷走そのものが、日本に大変な閉塞状況をもたらしているのです。  象徴的なのは、500日を経て、現段階で日本は国産ワクチンの開発ができていないという事実です。関係者からは、これほど早くmRNAワクチンが登場するなどということは想定外だった、日本では過去にワクチンの副反応問題で厚労省と製薬会社の責任が厳しく追及された経緯から新規開発に及び腰だったというような理由が挙げられていますが、現実には海外からワクチンを購入することに腐心するしかない状況になっています。

「やがて日本は間違う」ある臨床医の言葉

 ここで思い出すのは、昨年お亡くなりになりましたが、ある臨床研究の最前線にいた医師が私によく話していたことです。 「やがてこの国は間違う。再生医療にだけ傾斜している。確かに基礎研究は重要だが、最も重要なのは生身の人間に向き合う臨床研究だ」と。  基礎研究の理論は臨床研究で人体にどう作用するかという検証を経て、初めて実用化されますが、基礎研究と臨床試験の間には「死の谷」(デスバレー)が横たわっていると言われます。それほど基礎研究を臨床研究に応用するのは難しいということです。日本の医療研究は基礎研究ではそれなりの成果をあげられていますが、デスバレーを超えて臨床研究で成果をあげる総合エンジニアリング力が欠けている、ということなのです。  その結果、ワクチンをどう入手するか、ワクチンの打ち手をどう確保するかという議論に埋没しているのが、現下の日本の状況なのです。
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日本の産業を弱体化させたアベノミクス
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月刊日本2021年7月号

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