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不健康な人間は差別される!?

一昨年のタバコ増税に続き、喫煙率を今後10年で12%にするという計画が閣議決定された。非喫煙者にとっては喜ばしいこともしれないが、この流れが禁酒や禁ファストフードにまで波及するとなれば話は別だ。そして、今、日本は確実にその方向に進みつつある ◆メタボ法や食育基本法の危険思想
清水雅彦,健康,規制

清水雅彦氏

 イギリスの飲酒規制のような健康規制は、国の医療費は減るかもしれないが、雇用減による損失、数値化できない文化的な損失までを含めれば、明らかに国家にとってマイナスになるだろう。  このように、嗜好の領域まで国家が介入することには明らかに違和感がある。日本体育大学准教授の清水雅彦氏(憲法学)は、自身は「嫌煙派」だとしながらも、世界的な健康の強制に関して強い懸念を抱いている。 「社会保障費の削減を目的に、国民から生き方の多様性を奪うような社会は『国家は個人の自由を尊重し、私的領域に介入してはならない』という近代の価値観を勝ち取った近代市民革命以前の、封建社会へと退化するもの。こうした流れは、近代以前のヨーロッパの国々で行われた宗教弾圧や道徳の強制を想起させます。欧米をはじめ、世界的に乱立傾向にある健康強制法の数々には、法律家としても懸念せざるを得ません」  グローバリズム・新自由主義を前に、日本もその渦に巻き込まれつつある。そしてタバコや酒ばかりでなく、現段階ではあまり批判されていない日本の法律や制度にも、国家が国民に健康を強制しようとする姿勢が垣間見えると清水氏は指摘する。 「『医療費適正化』という名のもと、健診や保健指導を義務化する、いわゆるメタボキャンペーンが’05年から導入されましたが、これがエスカレートすれば日本人は全員、中肉ばかりになり、身体の差異という個性が失われるだけではなく『太っていることは悪』という差別的な考えにも繋がりかねない。また’09年に制定された食育基本法のもと、大学側が学生に『朝食を摂ろう』と呼びかけたり、文科省推奨のもと、学外での食生活など私的活動まで記録させる『学生ポートフォリオ』導入に精を出しいる状況です。健康健全な学生を量産しようとする試みは、過去にナチスドイツが国家の繁栄のために国民の健康を管理した発想に酷似しており、極めて危険です」  さらに憲法上の問題だけでなく、国家のモラルの問題もある。 「あたかも個人の健康を気遣うふりをして、国家が一方的なルールを押し付けるのは全体主義的であるだけでなく、国民を欺いていることにほかならない。こうした詐欺的な政策を続けていけば、国民はそのうち思考停止に陥り、民度の低下にも繋がるでしょう」  嗜好や食の分野で国民の“思考停止”が起き、ライフスタイルが強制されるとすれば、そこには“家畜”になった健康な人間だけしかいなくなるのだ。 【清水雅彦氏】 日本体育大学准教授。憲法を専門とし、平和主義と監視社会論を中心に研究。著書に『治安政策としての「安全・安心まちづくり」』(社会評論社)など。趣味はバイク ― 厚労省が推進する[健康全体主義]の恐怖【5】 ―
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