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上映時間6時間の試写会に行ってきた

平田オリザ

青年団の公演『冒険王』を演出中の平田オリザ氏 (c)2012 Laboratory X, Inc.

 先日、ある映画の試写状をいただいた。表面に『演劇1』『演劇2』というタイトルとともに劇作家の平田オリザさんの顔写真が写っているその試写状を見て、「あー、青年団のドキュメンタリー映画を撮っているって聞いていたけど、完成したのか」と何気なく裏面をみたときに、異彩を放つ文言が目に飛び込んできた。 「珠玉の合計5時間42分!」  試写のスケジュールも、「12:30(終映18:30)」「15:30(終映21:30)」とあり、たっぷりと6時間は拘束されるようだ。こんな長時間の試写会は、今まで経験したことがない。だが、私事ではあるが平田オリザさんの劇団「青年団」には知人が数名所属しており、平田さんご自身にも鳩山政権で内閣官房参与就任時に取材をさせていただいた。6時間という時間の長さに尻込みしつつも、興味のほうが勝り、試写会に行ってみた。  この作品は『演劇1』(2時間52分)、『演劇2』(2時間50分)から成っており、『選挙』『精神』などのドキュメンタリー映画で知られる想田和弘監督が「4年の歳月と300時間以上の映像素材を経て、ついに完成」した大長編演劇ドキュメンタリーだ。  試写会場で配布された資料によると、撮影は2008年7月から2009年3月まで断続的に行われ、編集もまた断続的に2年間かかったという。 「青年団」という劇団の特殊性や、「現代口語演劇」などの平田氏が芸術家として日本演劇史に残した偉業を書くだけでも、かなりの文字数を要してしまうが、「観察映画」と謳っているこの作品では、よくあるドキュメンタリー映画にあるような説明的なテロップやナレーションは一切使われていない。想田監督の前々作『精神』でも、ほとんど説明のテロップなどがなかったように記憶しているが、ここまで潔く「撮り手」の説明を排除することが可能になったのは、平田氏が「能弁な被写体」だったからではないだろうか、と推測している。 「演劇とは何か?」をワークショップで生徒に語る平田氏、地方の演劇祭で「いかに演劇祭が地方にとって有益なコンテンツとなりうるか」を地元政治家に説く平田氏、フランスで演劇祭関係者に役者のギャラ交渉を理路整然と行う平田氏。これらのシーンだけでも、「演劇の本質と、それらを取り巻く経済的状況」などが、演劇に詳しくない人々にも伝わってくるような構成になっている。  また、稽古場から公演当日の舞台製作、本番、打ち上げ、さらには文化庁への助成金の申請作業といった演劇の舞台裏もたっぷりと「観察」されており、語るべきところに溢れている作品だ。正直な話、6時間もドキュメンタリーを観るのはしんどいのではないか、と思っていたが、予想以上に楽しんでしまった。ただ、お尻は痛かったが。  配給会社の方によれば、10月のシアター・イメージフォーラムでの上映時には「通しでみれるようなプログラムにはなる予定です」とのこと。そのほかにも全国で順次公開していくとのことなので、秋に映像でどっぷりと演劇に浸ってみるのはいかがだろうか?
平田オリザ

メンタルヘルスに関するフォーラムで、社会での演劇の役割について講演する平田氏 (c)2012 Laboratory X, Inc.

<取材・文/織田曜一郎(本誌)>
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