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もし、残念な人が『論語』を読んだら【その8】

もし、中国人が『論語』を読んだら 本場・中国では『論語』はどのように読まれているのか。 「『論語』? もちろん知ってるに決まっています。好きな言葉は『我三人行えば必らず我が師を得』です」と、長春の飲食店で研修中の女性(21歳)。  旅行会社を経営する男性(38歳)も、「論語は間違いなく人生の指針であり、現在の中国のさまざまな社会問題を解決してくれるもの。今は中国の伝統文化を学んだ人が尊敬されますから、論語を知っていれば昇進もできる。一流小学校に通う娘と一緒に、私も勉強する日々です」と熱く語る。  実は中国では’06年に論語ブームが起こった。そのきっかけと言われるのが、北京師範大学輿伝学院副委員長の于丹教授がテレビ番組で論語を現代風にわかりやすく説いた『論語心得』だ。その書籍版は出版されるとたちまち数百万部のベストセラーとなった。  中国の事情に詳しいフリーライターの田中奈美氏は、このブームの背景をこう話す。 「物質よりも精神的満足をいかにして得るかについて説き、清く正しく生きましょうと語った内容が、拝金ムードが蔓延する中国で、それに少し疲れた人たちの心に響き、”癒やし効果”を発揮したのでしょう。ただし、これはあくまで表向き。その背景には、政府の打ち出した”和諧社会”政策があったと思われます。格差社会の昨今、政府の課題は、社会の安定のため富めない者にいかに心穏やかに過ごしてもらうかということ。于丹教授はそんな政府の意向をうまく酌んで、時流に乗ったのです」  一方で、論語ブームはある種の”教養ステイタス”も生み、金持ちの間でもブレイク。論語をはじめとする「国学」サロンができ、金持ちの交流の場としてビジネスを広げるために利用されたとか。  しかし、それで終わらないのがかの国。論語ブームで巨額の富を得た于丹教授は、「富めない人々の不満を心理操作でごまかしただけの商売人」という痛烈な批判を浴び、大学教授らが于丹ボイコットを呼びかけるなど、大バッシングに発展。「その毀誉褒貶の激しさには、中国社会の複雑さが反映されている」と田中氏は指摘する。  論語では「中庸の徳たるや、其れ至れるかな」と「過不足のないちょうどいい加減」が最高と説いているが……。孔子の教えの実践はなかなか難しいよう。 取材/小竹直人 取材・文/尾崎 亮 昌谷大介 田山奈津子 港乃ヨーコ 鈴木靖子(本誌) イラスト/加藤休ミ
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