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武田徹「有事の拡張されたメディアを鵜呑みにするのは危険 」

武田 徹氏】 評論家
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原子力リテラシーの高いジャーナリスト ’58年、東京都生まれ。東大先端科学技術研究センター特任教授を経て、恵泉女学園大人文学部教授を務める。著書に『核論 鉄腕アトムと原発事故のあいだ』(中公文庫)など多数 武田徹氏が今回の震災報道に際して実感したのはメディア論の始祖マーシャル・マクルーハンの「メディアは人間の身体を拡張する」という言葉だったという。 「非常時のメディアは、平時のメディアよりもさらに激しく人間性を拡張するんですね。情報を鵜呑みにしてうろたえる人、逆に安心しきっている人の振れ幅が大きくなっている。そして、各メディアは個々に芸風がありましたが、それがいつも以上に誇張された印象がしますね」 そして原発事故独特なもの、と前置きしつつ、武田氏は美談にまとめようとする記事には居心地の悪さを感じているようだ。 「先がどうなるかわからないだけに、単純に”頑張ろう”と言える段階なのか、疑問が残りますね。原発に関しては、キャッチコピーやスローガンで動くのが一番よくない。原子力の問題は複雑で、言葉を尽くさなきゃいけない。例えば、放射線の災害で、晩発性の障害は、それこそ10年20年たたないと影響がわからない。そして影響が出たとしてそれは20年前の被曝が原因なのか確定が難しい。そうした現象を相手に、報道は常に安全か危険かをその場で言わなくてはいけないという、とても矛盾した立場におかれている。予防原則的にありえるかもしれない危険を伝えることはメディアの使命ですが、一方で風評被害の懸念も含め、社会全体を考えなければいけない」 武田氏は「マスメディアは今後、視聴率や売り上げを伸ばすために刺激先行に走るのではなく、発信したことでどういうリスクが起こるのかを考えて報道していくべき」と強調する。 震災当時、イスタンブールに滞在していた武田氏だが、海外と日本での報道に違いはあったのか。 「地震よりも原発の被害を恐れる傾向は海外のほうが早かった気がします。情報収集に役立ったのがNHKのウェブニュースとTwitter。NHKでは水野倫之解説委員、そしてTwitterでは東京大学の早野龍五教授の分析が正確だと思ったので、この2人が発する情報をチェックしていました」 世界中から注視された福島の原発事故で、最初に水素爆発を起こしたマーク1型原子炉を設計したGE社元設計者の証言を掲載したのが『週刊朝日』だ。 「日本に独自技術がなかった’70年代初頭、GE社の設計した原子炉を使わざるを得なかった。以降、国内メーカーが技術を蓄積していって国産が可能になった。海外にとって、あれはGE社の事故と見るか、それとも日本企業の扱い上のミスと見るかは意見が分かれるかもしれませんが、少なくとも『原子力を安全に運用してきた』という日本のイメージは失墜しました。その意味で、最近、第三世界への原発技術輸出の国際競争が激しくなっていましたが、日本は間違いなく不利になるでしょうね。海外からの救援隊は、自分たちの技術を落ちこぼれた日本に見せつけに来たという意地悪な見方もできます」 企業間、国家間で原子炉技術の競争が起こっている現実を見ないと、今、何が起きているか、これからどうなってゆくかもミスリードしかねない。メディアの発する刺激的なフレーズに踊らされるのではなく、冷静な状況分析の力が求められているのだ。 ◆報道への接し方 メディアの発するスローガンに惑わされず背景をよく理解しよう 【雑誌】光文社『FLASH』4/12号
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原発とCIAとの関係性は興味深いとしながらも、「読売だけでなく、朝日新聞でさえ推進派だったほど、’60年代までは原発にウェルカムだった。そこまで国民的熱狂があった理由も考える必要がある」と指摘 【雑誌】小学館『週刊ポスト』4/8号
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アテになる記事というより、海外のバカ記事として面白い。 「今回の災害の規模は海外メディアをうろたえさせた!?」と武田氏 【雑誌】朝日新聞出版『週刊朝日』4/1号
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福島原発マーク1型原子炉に関するGE社の元設計者の証言記事。「なぜ米国製の炉が日本に造られたかも戦後史の中で原子力を考える重要なポイント」 震災報道[アテになるメディア]判定会議- 【3】
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