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漫画キャラクターの命名方法とは?(森恒二『自殺島』の場合)

 さまざまなキャラクターが登場するマンガの世界。実は登場人物たちのモデルが、友人や編集者など作家の身近な人たちであるというケースは多い。
自殺島

『自殺島』コミックス最新8巻は、白泉社より発売中

 有名なところでは、手塚治虫作品の常連キャラクター「アセチレン・ランプ」(頭にろうそくが立っていることがよくある、男性キャラクター)は、手塚氏の小学生時代の友人がモデルとなっているし、赤塚不二男氏の『レッツラ★ゴン』に登場する「武居記者」、鳥山明氏の『Dr.スランプ アラレちゃん』に登場する「Dr.マシリト」などは担当編集者がモデルとなっている。  また、編集者の立場からすると、知り合いの作家さんの作品を読んでいたら自分の名前と同じキャラクターが登場していた、という経験は「編集者あるある」といってもいいぐらい、よくあることだ。記者の場合、いきなり殺されたりするどうでもいいキャラクターの名前が自分と同じだったりすることが多く、「名前をいちいち考えるのが面倒だったのかな」などとかねてから思っていた。  このたび、記者が懇意にさせていただいているマンガ家の森恒二氏の作品『自殺島』(白泉社「ヤングアニマル」にて連載中)に、記者の名前と同名のキャラクターが登場していたので、思い切って「マンガ家はどのようにしてキャラクターを構築していくのか」という創作の裏話を聞くべく、電話で直撃してみた。 ――森さん、『自殺島』8巻の発売、おめでとうございます! 森氏:お、ありがとう! ――それで、この8巻から私の名前と同じキャラクターが登場してますよね。森さんの前作『ホーリーランド』でも、私が知っている森さんのご友人の名前が出てきたりしていたんですが、マンガ家さんってキャラクターの名前を知り合いから引用することって多いんですか? 森氏:うーん。ほかのマンガ家さんがどうやって命名しているのかはわからないけど、飽くまで俺の場合は知り合いの名前を使うことが多いね。ぶっちゃけ、7~8割のキャラは知り合いの名前を付けているかな(笑)。 ――そんなに!? えーと、ぶしつけな質問で恐縮なんですが、それって、キャラの名前を考えるのが面倒だからですか? 森氏:いやいや、そんなことはないよ(笑)。まず、物語を考えて、キャラクターを配置していくんだけど、俺の場合はデビュー作の『ホーリーランド』が、自分の実体験をベースにした物語だったっていうのが、大きいかな。 ――『ホーリーランド』といえば、かつてヤンチャだった森さんのケンカ体験が存分に生かされている作品ですが、ということは、主人公のケンカ相手たちも実際に森さんがケンカしてきた人たちの名前なんですか!? 森氏:さすがにケンカ相手の場合は多少は変えたりはしているけどね(笑)。別に実録マンガじゃないからすべての物語が実体験ってわけではないけど、「こういう物語にしたいな。そのときの対戦相手こういうヤツがいいな。それでそいつはどんな性格だろう」とキャラの造詣を深めていく過程で、「あ、このキャラってあいつに似てるな」って、今まで知り合った人物が当てはまってくるんだよ。 ――なるほど。でも、そこからは性格や行動パターンは実在の人物を参考にしたとしても、できあがるのは飽くまで森さんのオリジナルキャラクターなんですから、別の名前をつけてもいいんじゃないですか? 森氏:いや、これが不思議なもので、いったん「あいつに似てるな」と思ってキャラクターを深めたあとに、実在の人物と別の名前にするとキャラクターが動きにくくなったりするんだよね。
自殺島

『自殺島』に登場した、記者と同名のキャラクター「織田」。実物(!?)よりも数倍かっこいい(『自殺島』8巻より引用 (C)Kouji Mori 2012)

――なるほど。 森氏:実在の人物の名前にすると、「あ、このときにこいつはこう動くな」とスムーズに物語を展開させやすくなってくる。逆に実在の人物を参考にしつつも、物語の進展上、「このままの性格でこいつは動き出さないほうがいいかな」というときは敢えてちょっと名前を変えたりすることもあったりするよ。  森氏の作品『自殺島』は、増え続ける自殺者対策に業を煮やした政府が自殺未遂常連者を「島流し」にして切り捨てる時代、という舞台設定の下、自殺島に送られつつも、改めて生きることを選択した「未遂者」たちがサバイバルを繰り広げるという物語だ。さまざまな困難に登場人物たちは巻き込まれていくが、どんな人たちが登場人物のモデルとなったのか、そんなことを想像しながら読む、というのもまた面白い読み方かもしれない。<取材・文/織田曜一郎(本誌)>
自殺島 8 (ジェッツコミックス)

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