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「喜びや悲しみを共感し、自分の都合を捨てることが、立ち直りへの道」僧侶・釈 徹宗

― 有名人が告白 震災で変わった「私の生き方」 【11】 ― 阪神大震災、オウム事件、9・11――。これらの出来事と今回の東日本大震災の一番の違いは“当事者感覚”の有無だろう。東京から明かりが消え、余震が続いたなか、人々は原発の情報収集に奔走したからだ。そんな状況を経て、各界著名人の価値観はどう変わったのか? ◆儚いからこそ愛おしい。だからこそ、かかわっていく。 その心の転換が求められる
釈 徹宗

61年生まれ。浄土真宗本願寺派・如来寺住職。主な著書に『いきなりはじめる仏教生活』(新潮文庫)、『現代霊性論』(共著・講談社)など

釈 徹宗 しゃく・てっしゅう(如来寺住職)  何十年、何百年、何代にもわたって誠心誠意、築いてきた文化や生活が、いとも簡単に消え去っていく。さっきまで元気でいた人が、右手を離した瞬間にもう帰ってこない。そんな儚さを私たちは目の当たりにしました。  しかし、大切なのは、その儚さから目を背けないことです。儚いからこそ愛おしい、儚いからこそかかわらなくてはいけないというように、心を転換していく。放っておけばすぐに崩れてしまうのだから、皆で慈しみ、かかわり続けるのです。  そして、人の喜びや悲しみを自分のものとして共感し、皆で少しずつ自分の都合を捨てる。捨てることが、結局、早く、立ち直る道となっていくのです。  仏教では、これらを「四無量心」――限りない慈しみの心が理想の心であるとする「慈無良心」、他者の悲しみをわが悲しみとする心「悲無量心」、他者の喜びをわが喜びとする心「喜無量心」、こだわらずに捨てていく心「捨無量心」――で説くことができます。この「四無量心」こそが、これからの私たちに必要な心の指針になるのではないでしょうか。  現代社会は、「市場原理」や「等価交換」を当然の前提としています。でも、このような事態で大切なことは「分配」や「贈与」を積極的に選択する態度です。震災直後、私はCNNから宗教者としてこの事態をどう見るか?という取材を受けました。そこで彼らがしきりに言っていたのは、「なぜこんな状態で略奪が起こらないのか?」ということでした。  私は、日本は社会的フェアネスが長年にわたり担保されてきた国なので、順番に並んでいたら必ず自分にも回ってくるという信頼感があるからだとお答えしました。  みんなが少しずつ痛みを分け合うことが、結果的に社会全体をよくする近道であるという感性は、多くの日本人が共有している。ここが一番のキモです。  個人主義的な傾向が強まっているとはいえ、もともと日本は関係性優先の傾向が強い。未曾有の事態に直面し、その関係性が浮き上がっているのではないでしょうか。
覚悟の決め方 僧侶が伝える15の智慧

地震後の“空虚”への処方箋

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