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【平山夢明レポート】街中のヘンな人々

― 週刊SPA!「平山夢明のどうかと思うが、ゾゾ怖い」 ―  まあ長い人生、誰でもひとりやふたり変人に遭遇すると思うんですよ。おいらもそこそこ遭遇してますしね。先日も早朝の電車に乗ろうとしたら後ろにいたデブの人にデイバッグを引っ張られ<あんた、NHKかよ!>と怒鳴られたわけです。これが<割り込むな>とか<靴を踏むな>ならわかるのですが、朝っぱらからNHK職員に間違われたのですから、グッと詰まってしまい<自営です>と答えてしまったわけですね。  と、このように本当に世の中は油断すると、いつのまにやら変人に取り囲まれているから要注意です。この前も電車で若者が携帯電話やってるんです。大きな声で、英語で。<おーいえー。あいあむ、しろー・いながき。おーいえ。かむひあ。おーるらいと! のーばでい! うぇるかむばでい!>。こんな感じで、何か頭のなかの単語を手当たり次第に使っているようなので、周囲の人はみんな<哀しい青年><触れてはいけない青年><身内でなくて良かった青年>を見るような生温かい眼差しでいたのですが、次の駅でドアが開いた瞬間、裸のに上にヒョウ柄ベストを着込んだグラサンの若者が<おーいえ! ひあかむ! あいあむ>と入ってきて、先程の若者と肩を叩き合ったので車内に<静かな愕然>が充満したわけです。  ほかにも、知り合いで大きな家に住んでる女性がいたんですね。庭が広くて、芝生があって。で、雑草がにょきにょき生えるんで以前は植木屋を呼んで雑草の始末をしてもらっていたんですが、やはり昨今の不況の関係で植木屋は高いので<なんでも屋>に頼むことになったんです。で、電話すると下見に行きますっていうんです。  で、見積もりが出たんですが、それがかなりバラエティに富んでいて上はほとんど植木屋と変わらない。でも、下のほうは<え? これでいいの?>っていうような予算だったんで、大丈夫ですか?と聞くと、〈うちは経験豊富な人材が多いですから、きちんとした人を派遣致します〉とのこと。当日、三人ほどやってきて作業を始めたんですが、ちょっと驚いたのはトイレを勝手に使うんだそうです。  普通はひと言、断るはずなのに割と堂々と使う一番年上の人がいて、トイレで出くわした彼女がハッとしていると割と睨みつける感じで庭に出て行ったそうなんですね。で、気になって見ているとその人は他のふたりのように庭のあちこちを移動せず、庭の片隅に、しゃがんだまんまなんだそうです。  夕方に終わったので庭を見ると、きれいになっていてホッとしたそうなんですけれど、あのシルバーの人が座っていた場所を見ると蟻の巣がいくつかあって、たくさんの蟻の死骸が転がっていたそうです。蟻の巣にも小枝が何本も儀式のように突き立っていて、ちょっと怖くなったそうなんですよね。 平山夢明 その夜、トイレに起きて、ふと庭を見ると白い物が動いている。見ると人が入り込んでいたのでビックリして警察に電話すると、確保されたのはあのシルバーの人。家に忍び込んで、また蟻の巣をいじっていたそうです。  捕まった本人はひと言も喋らず、ただ彼女と旦那さんを睨みつけるばかりだったそうで、身元を確認するものを何も持っていなかったので、警察になんでも屋に電話をしてもらうと<本日付けで解雇したので関係ありません>と云われたそうです。どうやら昔は大手企業のエライさんだったのに、ちょっと脳が故障してから野良老人になったようなんですね。  なんでも屋も最初は受け答えがちゃんとしているから仕入れたけど、使ったら駄目だったみたいな。警察に連行されたみたいですけれど、今でも似た人を家の近くで見るので<ちょっと怖い>と云ってました。ほんと、エライさんも、どうかと思いますが、壊れるとゾゾ怖いもんです。 平山夢明【平山夢明】 ひらやまゆめあき●’61年、神奈川県生まれ。’10年刊行の長編『ダイナー』(ポプラ社)が、第13回大藪春彦賞を受賞。前連載をまとめた『どうかと思うが、面白い』も、清野とおる画伯との特別対談やアメリカ旅行記付きで、小社より絶賛発売中! <イラスト/清野とおる 撮影/寺澤太郎>
どうかと思うが、面白い

人気作家の身辺で起きた、爆笑ご近所譚

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