『まどか☆マギカ』は“正しい選択はあるのか?”を問う物語

アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』にどっぷりハマった論者たちが作品の魅力や秘密を語り尽くす! 八代嘉美(幹細胞生物学者) ◆「まどか☆マギカ」とは“正しい選択はあるのか?”を問う物語である 脚本がハードなシナリオを得意とする虚淵玄さんということもあって、注目していました。女のコが過酷な運命に翻弄される物語と、アバンギャルドなビジュアルという組み合わせは『少女革命ウテナ』を彷彿とさせますね。ループ前のほむらもいいし、眼鏡のほむらも……最初のホワホワ感を突き落とすドライブ感やアクションの爽快感もあって、『ガンダム』や『エヴァ』にも匹敵する作品だと感じました。 「なぜ彼女たちが魔法少女と呼ばれるのか」というネタばらしをはじめ、印象に残るシーンは多い。相入れない価値観が提示される瞬間にドスッときました。そこでまず思い出したのは「HeLa(ヒーラ)細胞」でした。亡くなった黒人女性のがん細胞を培養したもので、ヒトに由来する歴史上初の継代可能な培養細胞で、さまざまな研究を可能にした医学史に残る成果です。しかし一方で、細胞を提供した本人や遺族にいいことがあったかというと、ない。つまり公の利益にはすごく寄与したけれど、残された彼女の家族が顧みられない現実をどう考えるべきなのか?というエピソードです。  医学にもマクロな視点が要求されるがゆえのジレンマがあります。目の前の患者さんは救いたいけど、「疫学」というマクロの数学のなかでは個の祈りは消えざるを得ない。私の専門である再生医療の問題にしても、正解はありません。まどかが最終的に自らの意思で選択したように、万能な答えではないと知りながらも何かを選ばなければならないときがある。そのことに改めて自覚させられる。そういう結末なのかなあと。  まどかのお母さんみたいにバリバリやってる人は身近にたくさんいますよ。そりゃ魔女に近い人も……。でもそれは女性に限らず研究者なら誰でも陥りやすいことで、自分がやりたい研究をやるためには予算がいる。そのためには成果が必要で……とグルグルやっていくうちに次第に手段と目的がずれてしまう。どの世界でもあることですし、大人はそれがわかっていても選択しなくちゃいけない。結局は選択を繰り返すことで誰しもが大人になっていく。そんなシリアスで根源的なテーマを持ったアニメだと思います。

劇中には難病にまつわるエピソードも。「ES細胞による半身不随の治療も海外で試験的に始まっています。奇跡でなくても回復する時代がやがてくるかもしれません」

【八代嘉美】 幹細胞生物学者。慶應義塾大学総合医科学研究センター特任助教。幹細胞生物学や倫理に関わる研究のほか、『SYNODOS JOURNAL』などに寄稿。著書に『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』(平凡社)など (C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS 大人気アニメ『まどか☆マギカ』の正体【2】
iPS細胞 世紀の発見が医療を変える

さあ、生命科学の最前線へ「いのちの仕組み」を探りに――。

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