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“荒れる沖縄の成人式”に見る意外なヤンキー事情

 今年の成人式は全国的にもおとなしく、目立った事件や暴れた新成人の報道はとても少なかったように思える。こうした傾向は“荒れる成人式”の代名詞とも言われる沖縄でも同じだったようである。地元紙の記者であり、事情に詳しい與那覇里子記者に話を聞いた。 「今年の成人式というか、成人式後の国際通りはずいぶんとおとなしかったですね。地元紙の報道にもありましたが、騒いだ後にゴミ拾いをする真面目なヤンキーのコたちがいて、ちょっとビックリしています。私自身、母校で訓示をしたのですが、おとなしくなったというか草食化しているなぁという印象でした」  どうやら一頃の大暴れするイメージは今や昔となりつつあるようだ。では、なぜ沖縄の成人式はあんなにも荒れるのだろうか。荒れる成人式の舞台裏を聞いた。 ◆ヤンキーたちは那覇を目指す  そもそも、沖縄の成人式が荒れるというのは微妙に間違っていると與那覇記者は言う。順を追って沖縄の成人式について解説を願った。 「沖縄の成人式は、基本的に市町村単位で行われますが、高校単位よりも中学単位での結びつきが強いのです。これは図らずも高校進学率が全国で最低であることも関係しているように思えます。中学単位での成人式を採っているのは那覇と豊見城で、母校の体育館や講堂などで成人式をやるのが一般的です。成人式は出席する新成人たちの中から実行委員会を選出して、1年かけて準備をします」  準備とは、祝辞は誰が述べて、司会は誰がする……といった、表向きのことだけではない。どんちゃん騒ぎのための準備もしっかりするという。 「南部の中学校では、成人式の後に那覇の国際通り周辺で二次会をやるのですが、これはヤンキー以外も出席するので、いわば”表の準備”。これとは別に、ヤンキーたちは“裏の準備”を進めます。たとえば、よくテレビに出てくるお揃いの羽織袴などの衣装を決めて調達する。二次会会場、国際通りへ行くためのマイクロバスやオープンカーの手配。また、国際通りでは、騒ぐ場所を後輩達が確保するなどもします。準備のために後輩が駆り出されるわけですが、こうした“伝統”は少なくとも15年以上も続いており、成人式のために後輩が先輩を支えることになっています。1学年下の後輩たちが場所取りからレンタカーの手配などに奔走するわけです」 ※2012年・成人式の国際通りの【映像】はコチラ
⇒https://nikkan-spa.jp/374038

 1年かけて成人式の“全て”を作っていくというわけだ。 「お揃いの衣装、記念撮影のためのカメラマンの手配に安くとも1人7万円、国際通りまでのバスやレンタカー、飲み代などはさらに別料金。昔は貸衣装がなかったわけではありませんが、自前の刺繍などをオーダーしていたために貸衣装では対応できなかったようです。衣装だけで10万円は超えたと聞きます。成人式のために貯金をするヤンキーのコもいます」  成人式が終わると、翌年のために、各中学の代表的なヤンキーの家に貸衣装業者からカタログが届くのだという。他の中学と被らないように業者もヤンキーも気を遣うのだとか。 ◆成人式は飲んで騒ぐのが沖縄流!地元の人たちは騒動にも寛容!?  では、なぜヤンキーたちは那覇を目指すのだろうか? 「以前は、学校近くや式典近くの空き地や駐車場で二次会をして飲んで騒いでいたのですが、それだけでは物足りなくなってきた。いい袴を着た姿を見てもらいたくて、人が多い国際通りに繰り出すようになった。他の学校のヤンキーと国際通りに集まって派手なパフォーマンスをすることで、今、誰が一番力を持っているのかも分かる。暴走族が、ギャラリーがいないと走らないのと同じ原理です」  そこで起きたのがヤンキー特有の“目立ちたがり”というわけである。国際通りで飲んで騒いで練り歩き、オープンカーで街頭を走り抜けていくのだ。成人式も国際通りも彼らにとっては1年間かけて準備した晴れ舞台にほかならない。その弾けっぷりが報道されると、沖縄の“荒れる成人式”となるわけなのだ。  だが、與那覇記者は「荒れるというのは微妙に間違い」とも言う。 「暴れるというよりも騒いでいるだけですね。酔っ払って暴走しちゃったりするコもいますが、若い世代からすると『晴れ舞台の成人式だからしかたないさ~』、地元の人からすれば『今年もまたやるんだろうなぁ~』ですね。そもそも、毎年、成人式で飲んで騒ぐのを見て慣れてしまった感じがあることや、騒ぐことをマスコミが取り上げるためにエスカレートしている側面もあるから内地の報道とは少し温度差があります」  なんと、地元の人からすると意外と「呆れた末の許容範囲」だったりするという。 「10年近く前から沖縄の成人式がクローズアップされ始めましたが、年を追うごとにおとなしくなってますよ。不景気で季節労働も減って、後輩はお金を工面できないし、本人たちも用意できないのが大きいですから」  沖縄に移住したノンフィクション・スポーツライターの松永多佳倫氏も同様の意見だ。 「最近では沖縄の暴走族は信号でちゃんと止まります。真面目なんですよね。成人式もただお酒飲んで騒いでるだけで、いきなり人を襲ったりはしません。ここ数年、騒がれすぎたので機動隊も出たりして物々しくなってますが、地元の人は意外と寛容ですよ」  なんともおおらか。これぞ“なんくるないさ”のウチナー特有の精神なのか。確かに物を壊したり、人を不愉快にさせることは問題だが、飲んで騒ぐことくらい、いいのでは……とも思えてしまう。1年かけて晴れ舞台の準備をして、酒を飲んでおおいに騒ぐ沖縄の若者たちのパワー、その元気をこれからは社会のためも役立ててほしいものである。 <取材・文/テポドン(本誌)>
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