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「中国式」振り込め詐欺の手口――スネに傷を持つ人間につけ込む

中国 昨年末、中山市在住の自営業・成瀬俊児さん(仮名・35歳)は、突然、郵便局職員と称する男からこんな電話を受けた。 <あなた宛の郵便物に違法物が入っていた。規定により警察に連絡することになっているが、発送元や中身については守秘義務があるので言えない。ただし、“手数料”を指定口座に振り込めば、郵便物をこのまま廃棄する> 「電話の主は手数料として約8万円を振り込むように要求してきました。ちょうど日本から船便で日用品を送っていたので、そのなかにAVでも入っていたのか、それとも誰かが薬物を紛れこませたのか、とにかく面倒なことになったと焦りましたよ」  実はこれ、中国で流行している振り込め詐欺の手口だ。幸い成瀬さんは中国人の友人に相談し、詐欺だと判明して無視して事なきを得た。しかし、今中国では振り込め詐欺が花盛りを迎えているのだ。北京市公安局によれば、’12年の1年で同市の振り込め詐欺被害の総額は14億円にも及んだという。また『斉魯晩報』(1月13日付)によると、人口500万人ほどの山東省済南市では、警察が把握しているだけで1か月に300件以上の振り込め詐欺が発生したという。  広州市郊外で日本料理店を経営する松田尚さん(仮名・42歳)も、振り込め詐欺グループからの連絡を受けたという。 「電話の男は税務局職員を名乗りこう言いました。『過去5年間にわたり、あなたは税金を過少申告している。未払い分の税金を今日中に指定口座に振り込まなければ、追徴課税が発生する』、と。約140万円を要求してきた。聞いた手口だったので、無視して切ろうとすると、いきなり半額に値下がりしました(笑)」  一方、広東省東莞市のメーカー勤務・高島功夫さん(仮名・37歳)の携帯電話には、なんと“殺し屋”からのショートメッセージが届いたという。 「『オマエを殺すように頼まれた。依頼者以上の金額を支払ってくれるならこの仕事は断る』という内容(笑)。敵の多い人なら信じてしまうかもしれないですね。ほかにも定番の『あなたの銀行カードが不正利用された』とか、身に覚えのない罰金を払え、などのメッセージがしょっちゅう来ますよ」  詐欺の釣り文句にお国柄も見え隠れするが、「中国の振り込め詐欺の手口にはある共通点がある」と話すのは、中国在住のフリーライター・吉井透氏だ。 「日本の振り込め詐欺は、家族愛につけ込んだものが多い一方、中国では、スネに傷を持つ人間につけ込み、賄賂を要求するというものが主流。これは、多くの人々が常に法律の編み目をくぐって生きているから。社会の腐敗度が高い中国ならではの傾向でしょうね。’11年11月に江蘇省蘇州市で起こった史上最大の振り込め詐欺事件では、被害者である投資会社の財務担当者が『マネーロンダリングの疑いがかかっているので出頭せよ。出頭したら返金するので、保証金を今すぐ振り込め』という電話にひっかかった。この会社は実際に、違法スレスレのことを行っていたようです」  中国の役人全員に「あんたの愛人から聞いたぜ」とスパムメールを送りつけることができれば、濡れ手に粟が可能というわけか!? <取材・文/奥窪優木> 週刊SPA!連載 【中華人民毒報】 行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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