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元刑事が語る「犯罪の調書はこうして出来上がる」

「むしゃくしゃしてやった」「ムラムラしてやった」など、事件報道には日常ではあまり使わない特有のフレーズがある。ほかにも「バールのようなもの」とか「みだらな行為」とか、気になる言い回しがいろいろ。そんな事件報道における定番用語のナゾを元警察官の小川泰平氏に聞いてみた! ◆強姦事件の調書は、そのへんの官能小説よりよっぽどリアルです
小川泰平氏

小川泰平氏

 警察にとって、事件は犯人逮捕で終わりではありません。真相解明のためにも厳密な調書を取ることは不可欠です。たとえ被疑者が「ムラムラしてやった」と実際に言ったとしても、そのまま書くのは三文調書。公判になったら裁判官や検事に「ムラムラってどういうことか説明して」と言われますから。  いや、その前に同僚や上司からツッコまれますね。本人が言った言葉はちゃんと記しつつも、さらに「ムラムラというのは、こういう心理状態になり犯行を思いつき、こういうことをしてみたいとの妄想に駆られたのです」など具体的に書きます。もちろん被疑者に事細かく「それは何で」「どういうこと」と聞いて答えさせたこと。強姦事件の調書は、そのへんの官能小説よりよっぽどリアルですよ。  殺人事件もそうですね。被害者を刺したときの包丁の構え方一つにしても、なぜそう構えたのかを聞く。「映画で観た」と言えばタイトルも聞いてウラを取ります。もしウソとなれば誰かに刺し方を教わったのかもしれない。すると背後関係の疑いも出てきますからね。  警察官のなかには、被疑者が言ったことを自分の言葉に直して書いちゃうバカ者もいるけれど絶対にダメ。公判で「私はそんな言葉を使ったことはない」と言われたら、警察官に誘導されたと取られかねません。特に会話文は言ったままを記します。方言もそのままですね。誘導という意味では、被疑者がうまく自分の気持ちを説明できるように噛み砕いた質問を心がけているけれど、「こういうこと?」みたいな聞き方もよくない。なかには「刑事さんがさっき言ったことでいいですよ」なんて言う被疑者もいるんですよ。「それじゃダメだよ。大事なことなんだからよく考えて、本当のことを話しなさい」と諭したりもします。  取り調べの最後に今の気持ちを聞くのですが、「反省している」と言う人もいます。それももちろん調書には書きますが、「やったことは事実だけれど、本当に反省しています」のように、“犯行は事実である”という念押しの表現は必ず記すんです。ただ反省の弁だけだと犯人のいい面だけ書くことになる。いいこと、悪いこと両方併せて記したうえで、本人にも納得させるのが調書なんです。 【小川泰平氏】 ’61年生まれ。’09年、30年勤めた警察官を退職。現職時は警察本部捜査三課、国際捜査課等で部長刑事として活躍、受賞歴500回以上。著書『現場刑事の掟』 ― 事件報道の[ありがち用語]ウラ読み辞典【10】 ―
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