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甲子園の“神実況” NHK名物アナのいない夏【第95回甲子園】

小野塚アナ

球場に通い詰めのせいか、ファンの如く日焼けで真っ黒の小野塚アナ(右)。高校野球のリアルな姿を描いて大ヒットの三田紀房氏の漫画『砂の栄冠』でもアナウンサーのモデルとして登場する

「イイ当たりーーーっ!」「トゥーレツーーーー!」 今夏はこの声を、聴くことができない。 「夏の風物詩」第95回全国高校野球選手権記念大会が始まった。この2週間は高校野球ファンならずとも、多くの国民がテレビやラジオに釘付けになる。しかし、今年の夏はいつもと様子が違う。数々の”名実況”で球児の夏を盛り上げてきたNHKの名物アナ、小野塚康之アナウンサーが、今大会は実況を担当しないというのだ。 8/5、NHKの甲子園特設サイトの「放送担当アナウンサー紹介」に小野塚アナの名前がなかった。「あるはずのものがない……」。甲子園があって、高校野球があるように、甲子園中継には小野塚がいる。そう思ってやまないファンはあまりに突然の通告に動揺した。野球実況版には「小野塚専用」があるだけに、2chでも「【悲報】小野塚康之アナ、実況担当から外れる」とたちまちスレが立ち、「引退か?」「ひとつ楽しみが減ってしまった」「あのウキウキ実況が聞けないのか」「さびC」などと悲嘆にくれる声で埋まった。 ◆ハイテンション実況の裏に、野球への深い愛情
小野塚語録

2chで現れる「小野塚チェックリスト」。実況スレでは試合が進むほど埋まっていく

 小野塚アナといえばNHKらしからぬハイテンション。裏で「熱闘甲子園」を放映する民放局を食ってしまうほどの熱さ(暑苦しさ)溢れる実況だ。2007年の第89会大会の決勝戦、佐賀北×広陵戦で飛び出した逆転満塁ホームランのシーンでは「あり得る最も可能性の小さい、そんなシーンが現実でーーーす!!」と絶叫した(http://www.nicovideo.jp/watch/sm14653043)そのフレーズは「神実況」と言われた。ネットでは「小野塚語録チェックリスト」ができ、担当試合を録音・録画して楽しむマニアがでるほどの存在なのだ。  しかしそれだけではない。高校野球ファンに愛されるのは、その真摯な姿勢だ。  今春のセンバツ高校野球のNHK公式サイトでは、中継にかける意気込みを「懸命にプレーする球児にどこまで付いて行けるか、真剣勝負で参ります。実況者である前に自分自身が高校野球ファンであることを大切に努めます」と記していた。また、実況中には「お水、飲んでくださいね!」と猛暑のなかスタンド観戦するファンならずも、テレビの前の視聴者を気遣ったり、「甲子園で応援できるチアリーダーが羨ましい」との元チアリーダの視聴者からの応援メールを読んだあと「選手の皆さんを応援しているチアリーダーの皆さんを応援している方々もいらっしゃいます」と優しいコメントをしたりする。  現在の赴任先である、神戸放送局公式サイトの小野塚アナの「趣味・特技」の欄には「野球の技術や戦術の研究。野球をテーマにした話であればお子さんからお年寄りまで男女問わず誰とでも楽しく会話できること」、「休日の過ごし方」には「野球を見ること(試合は勿論、練習や草野球に至るまでジャンル広くいつまでも)」などと明記されており、その「野球好きすぎ」ぶりが伺われる。  大阪、東京、広島、福岡とプロ野球チームの本拠地を転々としてきた小野塚アナ。プロ野球の実況も多く努めてきた。この6月に、広島から現在の赴任先である神戸放送局に異動。”地元”甲子園での実況をファンは楽しみにしていただけに、残念である。 「常に野球場が見渡せるところに部屋を借りている」と広島時代はその生活をサイトで語っていた小野塚アナ。「東京出身ですが野球が無くては生活できないと思い西宮市甲子園に終の棲家をもとめました」と57歳の今、神戸に異動しての抱負をサイトに書いている。 「世界に誇れる甲子園球場があること」。「兵庫の好きなところ」の質問をこう埋めている小野塚アナ。局の事情などで、後進に道を譲る立場になってしまったのかもしれないが、高校野球ファンは、小野塚アナが世界に誇る甲子園球場で、”痛烈”な名調子が再び聞けることを信じてやまない。 <取材・文/日刊SPA!高校野球取材班>
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