ネットで話題の“消された”マンガたち…手塚治虫の作品も

消されたマンガ

『消されたマンガ』(鉄人社刊)

 たしかに読んだはずなのに、本屋で探しても見当たらない……。世の中には発売はされたものの、発禁や自主規制など「大人の事情」で消えてしまったマンガが多くある。近年インターネットなどを中心にさまざまな噂が飛び交っているが、メジャー誌の人気作品からカルト作品まで、マンガが社会から消された裏にはどんな理由があったのか?『消されたマンガ』(鉄人社刊)の著者、赤田祐一氏とばるぼら氏に話を聞いた。

赤田「主な理由は差別表現や差別用語、性描写ですが、流通を通して売る以上は仕方ない部分もあると思います。ほかに多いのは企業名などですね。マイナー作品に関してはそういった部分のチェック機構が確立していないのもあるでしょう。出版大手になると校正がしっかりしていますからね。それでもだいぶ抜けていますが(笑)」

 やはり、差別とエロ、そしてグロの危険性はマンガ界でも別格なようだ。用務員に対する職業差別だとして問題になった『燃える!お兄さん』や精神疾患を題材にした不条理ギャグが問題になった藤子不二雄Aの『狂人軍』なども差別につながるとして封印された。また、オーバー30代なら誰もが股間を熱くした『いけない!ルナ先生』や『ANGEL』なども封印されたマンガとしては有名だ。

 また、意外なところではあまりにもぶっ飛んだサイケな話を収録した『ちびまる子ちゃん』の「まる子、夢について考える」も封印されている。

◆あの大物マンガ家の作品も“なかった”ことに

 封印されてしまうのはマイナー作品だけではない。赤田氏の言うように、誰もが聞いたことのあるメジャー作品が封印の憂き目に遭ってしまうこともある。

ばるぼら「永井豪はヒット作だった『ハレンチ学園』が大バッシングを受けたことで、それがトラウマになったのか、急にギャグ路線のキャラを作品の中で皆殺しにしました。その後『デビルマン』とか『バイオレンスジャック』を書き始めたので、ある意味才能が開花したキッカケになったのかもしれませんけど」

 一度は世に出たマンガが封印されていく要因について、ばるぼら氏はマンガがPTAや教育委員会から叩かれ慣れていなかった時代性も関係しているのではないかという。確かに、昭和から平成初期にかけては今よりも牧歌的な空気もあったことも事実だ。

手塚治虫,規制,差別

マンガの神様と呼ばれる手塚治虫もかなり“キレキレ”な作品を多く発表。物議を醸したことも多々あった。

 今では大騒ぎになるような表現も、当時は許されていた(見逃されてた?)ことも多々ある。今ではマンガの神様と呼ばれる手塚治虫の作品にも、後に封印されてしまった作品は多い。

赤田「手塚先生はまず作品自体が多いし、目立つからでしょうね。性について啓蒙的に描かれた『やけぱちのマリア』やロボトミー手術を題材にした回の『ブラックジャック』などが封印された作品としては有名。封印作品は漫画史の観点から見ても興味深い問題だと思います。昔の作品はタブーなしで書いていたから、後々封印されてしまったものが多いんじゃないかな」

◆他作品からそのまま描き写し!?

 差別表現などは80~90年代に自主規制されていったが、新たに浮上してきたのがストーリーのパクリ疑惑や、背景や構図を他作品から書き写す「トレース」と呼ばれる問題だ。元ネタとなる作品との比較画像や解説がインターネットで出回ったことから編集部や作者が謝罪に追い込まれるなど、封印マンガは新しい時代に突入している。

ばるぼら「『メガバカ』事件は面白かったですね。最初は数コマトレースしてるって話が、ネットでどんどん指摘されてリアルタイムで増えていった。音楽でいうサンプリングが、ついに漫画でも!っていう(笑)。あまり著作権を意識していないから写してしまうんでしょうね。大友克洋みたいにリアルな画の人が増えたのも影響しているかも」

 しかし、子供向けから大人向け、デフォルメされた画のものからリアルなものまで、これだけマンガの数が増えると、読んでいるうちに無意識に似てしまうこともあるのではないだろうか?

赤田「映画でヒッチコックのスタイルを真似しているブライアン・デ・パルマとか、B級のネタを使うクエンティン・タランティーノみたいに、マンガでも筋が通っていて愛があればいいんじゃないですか?背景もわざわざ写真を撮る人や資料を読む人もいるのに、描き写すんじゃ安直すぎるよね」

 たしかに書き写しではなく愛情に溢れた作品ならば、元ネタが気になって手に取る読者もいるかもしれない。映画や音楽ではよくあることだ。しかし、マンガにパロディの線引きは難しく、漫☆画太郎氏の『珍入社員金太郎』や作品に登場した架空の雑誌に本家からクレームが来た『おまかせ! ピース電器店』など、封印されてしまった作品も多い。漫画とパロディについては、これからも議論が深まっていくだろう。

 時代によって異なる意識やモラルが現れているのがマンガ。複雑な事情があるとはいえ、一読者からしてみれば面白い作品や思い出の作品が読めなくなってしまうのは寂しい限りだ。世界に名を轟かせる日本のマンガ文化を守るためにも、封印マンガが増えないことを祈りたい。 <取材・文/長谷川大祐(本誌) 林バウツキ泰人>

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