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陸前高田の漁師たちを撮り続ける女性写真家

陸前高田

シラスの釜揚げ作業が深夜まで続く

 東北大地震で大津波の直撃を受け、人口2万3300人のうち死者・行方不明者1700人以上、家屋倒壊数3300軒以上という多大な被害を出した岩手県陸前高田市。震災直後から、この地を撮り続けている女性写真家がいる。安田菜津紀さん(26歳)だ。 「街が破壊しつくされたというのに、漁師さんたちはあれほど壊滅的な被害を出した場所に戻ってきて、どうしてもう一度向き合おうとしているのか。その答えを知りたくて、彼らと一緒に海に出ています」(安田さん)  漁の撮影は、深夜の2~3時頃に出航し、照りつける太陽の下や寒風吹きすさぶ船上でシャッターを切るといった過酷なもの。シラス漁やミズダコ漁のような個人でやるものから、定置網のような大がかりの漁まで、市内で行われるあらゆる漁に密着している。  写真を撮り続けながら、気づいたことが一つあるという。 「陸前高田では『広田湾』のカキやウニが有名ですが、それらが街の中に出回ることによって、街が活気づくのがわかりました。2011年はほとんど海産物を出荷できませんでしたが、去年はカキやホタテ、ウニなどの出荷が一部できるようになったんです。『今日はウニをおすそ分けに行くねー』という漁師さんたちの声がはずんで、『今日は帰ったらウニがあるぞ!』と、おすそ分けされる側の明るい声も響く。ああ、この街は海が元気になれば活気づく。海と一緒に呼吸をし続けている土地なんだなって。だから、漁師さんたちは壊滅的な被害にあっても諦めていない。海の再生が街の再生につながるとみんなわかっているんです。海は恐ろしいだけの場所じゃなく、命を育む場所でもある。そのことを、漁師さんたちの声と姿を通して伝えたいと思っています」(同)  とはいえ、震災から2年半がたつが、まだ港もかさ上げ工事中。陸の上にも海の底にも大量の瓦礫が残り、流されてしまった船や漁具なども不足しているという。 「まだ『復興した』とは言い切れません。カキも滅菌施設が修復していないので、加熱用だけの出荷です。ホヤも生育に時間がかかるので養殖ものはまだ出荷できていません。少しずつ、少しずつといったところです。  そんな陸前高田の漁師さんたちと、東京にいながら接点を持つこともできます。例えば、首都圏に展開する居酒屋チェーン『四十八漁場』では、広田湾の漁師さんから直送された海産物が食べられるんです。『支援する』というよりも、三陸の食べ物は本当に美味しいですから、まず食べてもらって、その良さを知ってほしい。そしてそれが結果的に震災復興に繋がればいいなと思います」(同) <取材・文/北村土龍 写真/安田菜津紀> ⇒【画像】安田菜津紀さんの写真はコチラ
https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=517884
陸前高田

日が落ちると、水平線を漁火が照らし出す

※安田菜津紀さんの写真展「それでも海で~陸前高田 潮騒と共に~」が、オリンパスプラザ東京で10月16日(水)まで開催中。その後、オリンパスプラザ大阪でも10月24(木)~11月6日(水)に開催される。ともに10:00~18:00(最終日は15:00まで)、入場無料。 (http://olympus-imaging.jp/event_campaign/event/photo_exhibition/131003_yasuda/【安田 菜津紀】 1987年神奈川県生まれ。カンボジアを中心に、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進めている。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。2012年、「HIVと共に生まれる ―ウガンダのエイズ孤児たち―」で第8回名取洋之助写真賞受賞。共著に『アジア×カメラ「正解」のない旅へ』(第三書館)、『ファインダー越しの 3.11』(原書房)など。
ファインダー越しの311

東日本大震災を通じて、写真を撮る意味、残す意義を考える。

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