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“泣ける野球小説”ブーム到来か!?

 2月1日、プロ野球12球団が一斉にキャンプインした。選手はもちろんファンにとっても今年の野球のスタートとなるわけで、ルーキーや新外国人などの新戦力をチェックしたり、ベテラン選手の仕上がり具合を確認したり、いやがうえにも気分は盛り上がる。
泣ける野球小説

左から、坂井希久子『ヒーローインタビュー』、増山実『勇者たちへの伝言』、重松清『赤ヘル1975』

 とはいえ、開幕まではまだ2か月近く。その待ち遠しい時間のお供に野球小説はいかがだろうか。 「実は昨年末に、野球小説の快作が3冊立て続けに刊行されているんですよ」と語るのは阪神ファンの編集者・新保信長氏。その3冊とは、坂井希久子『ヒーローインタビュー』(角川春樹事務所)、重松清『赤ヘル1975』(講談社)、増山実『勇者たちへの伝言』(角川春樹事務所)である。 「野球小説といっても、試合の勝ち負けとか、プレーそのものにスポットを当てたものではありません。野球によって勇気づけられたり、人と人が結びついたりという、“野球のある人生”の悲喜こもごもを描いた人間ドラマなんです。しかも、3冊それぞれが別々の球団とそのファンをモチーフにしているのが面白い」  11月刊の『ヒーローインタビュー』は阪神タイガースの一軍半の選手が主人公。 「地元の高校からスラッガーとして期待されて入団したものの、10年間で171試合出場、通算打率2割6分7厘で8本塁打というパッとしない成績。タイトルとは裏腹に一度もお立ち台に上がったことがない選手です。そんな彼のことを、高校時代の野球部仲間、担当スカウト、後輩のドラ1投手、野球音痴ながら彼に好意を寄せる女性など、周囲の人々が語る形式で物語は進む。一人の野球選手の話をしながら、それぞれの語り手の人生も浮き彫りにする筆致は巧み。ベタといえばベタな浪花節的ドラマですが、最後の仕掛けまで、泣き笑いの連打。明らかに中日ドラゴンズの山本昌をモデルにした選手もナイスな役で登場するので、中日ファンにもおすすめですね」  同じく11月刊の『赤ヘル1975』は、広島カープが初優勝した1975年の物語。 「東京から広島に引っ越してきた中1の少年と、同級生となった地元の少年2人の熱い1年を描きます。原爆投下から30年という節目の年に赤ヘル旋風を巻き起こしたカープ、その活躍に大人も子供も熱狂する。ペナントレースの展開を追いながら、広い意味での原爆の後遺症に苦しむ人たち、大人の都合に振り回される子供のつらさ、さらには少年たちの友情とほのかな初恋も描かれ、読みごたえ十分。ミスター赤ヘル・山本浩二がおいしい役どころで登場するのもカープファンにはうれしいところでしょう」  そして12月刊の『勇者たちへの伝言』には、今はなき阪急ブレーブスと、その本拠地だった西宮球場が印象的に登場する。 「阪急ブレーブスと西宮球場を核に、ある親子と北朝鮮帰国者の過酷な人生、プロ野球の歴史、実在のブレーブス関係者の人生を重ね合わせた物語。途中でちょっとタイムスリップ的要素も絡みますが、荒唐無稽な感じにはならない。むしろ伏線とその回収の見事さに圧倒されます。代打ホームランの世界記録を持っている高井保弘氏が登場するんですが、引退後どうしていたかを知って驚きました。おそらくその部分の記述は事実でしょう。中年の野球好きは、いろんな意味で号泣必至です」  これらの“泣ける野球小説”が同時期に出版されたのは偶然なのか? 今後も実在球団やその選手を題材にした小説が続くのか? 「希望としては続いてほしいですね。昨年の楽天の優勝を見てもわかるように、地元密着型のチームはファンの生活と密接に結びついています。楽天なんて結成から優勝までをそのまま書いても泣ける小説になりそうだし、南海(現ソフトバンク)や日本ハムのように球団が売却されたり本拠地が移転したチームも題材としては面白そう。ぜひそれぞれのチームのファンの作家に書いてほしいです」  ちなみに、『ヒーローインタビュー』と『勇者たちへの伝言』は同じ出版社。この際、シリーズ化してみてはいかがでしょう? <取材・文/日刊SPA!取材班>
ヒーローインタビュー

グッとくる人間ドラマを書かせたら若手作家随一。「泣いたらアカンで通天閣」原作者が贈る、スポーツ小説ではない、プロ野球選手の感動物語

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