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クレーマーはファンになってくれる可能性も…【元ホテル支配人の接客術】

「ホスピタリティ」という言葉が一般的になり、サービスの内容と同時に、その質も問われるようになっている。が、その一方で「お客様は神様」という言葉を曲解した、困ったちゃんな客も少なくないようで……。 ◆理不尽にも思えるお客様の要望は、自己の存在のアピールなんです モンスター, 客, 残念な人 掃除をしたばかりの部屋で、リモコンがまっすぐ揃っていなかったと一晩中、怒鳴り散らす客。長期滞在で部屋に壁一面の神棚をしつらえた客。「部屋に幽霊がいる!」とおびえる客。ロビーは客とも言えないヤクザがたむろ……。歌舞伎町のホテルの支配人として、トホホを通り越してトンデモない客と対峙してきたのが三輪康子氏。氏によると、「理不尽にも思えるお客様の要望やクレームは、自己の存在のアピール」だという。 「何か言いたいお客様は、『聞いてもらいたい』という気持ちを強く抱いています。ですから、反論せず、まずは同調を繰り返す。話を聞き、吐き出させるうちに相手も落ち着いて、感情の高ぶりも収まります。なんとかこの場を一刻も早く収めようと焦り、単調な謝罪の言葉を繰り返したり、顔を見ず頭を下げてばかりでは、話を聞いていないのが伝わりますから、怒りは増すばかり。『対応は迅速に。解決は急がず』が基本で、それにはむしろ、『とことん付き合う』くらいの姿勢のほうがいい」  話がこじれがちなのは、この「同調」のプロセスがどうしても中途半端になってしまうため。言いたいことを吐き出せば、人は落ち着く。怒りの弾も切れたな、というところで、振り上げたこぶしを下ろすきっかけを与えるように、こちらの立場を示し、自分ができ得る最大限のことを提案するのだ。 「例えば、『エレベーターの乗降客の声がウルサイから部屋を替えろ!』と激高されたお客様に対し、その要求はお断りしましたが、その代わり、一晩中エレベーターの前に立ち、通るお客様に『お静かにお願いします』とお声掛けをしました。クレームは『わかってもらえない』『思い通りにいかない』という怒りですが、それはある種、心が病んだ状態です。そこに“やさしさで倍返し”をすると、相手の心には強く響くんですよ」  実際、三輪氏のファンになった元クレーマーは多く、かつて難癖をつけられたお客様から、結婚報告のメールが届いたりするという。 「きちんと対応できれば、お店のファンになってくれる可能性もある。私にはむしろサイレントクレーマーが怖いです。信頼を取り戻すチャンスすらくれない彼らのほうが、圧倒的多数なんです」 【三輪康子氏】 歌舞伎町の有名ホテルの元支配人。真摯なクレーム対応や、犯罪組織の排除への協力で、新宿署から感謝状が贈られた。著書に『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人』 取材・文/志賀むつみ 古澤誠一郎 港乃ヨーコ 鈴木靖子(本誌)イラスト/こまつめ組 ― 私が遭遇した[トホホな客]図鑑【7】 ―
日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人

ひどい状態のホテルをよみがえらせ、警察から感謝状をもらった「歌舞伎町のジャンヌ・ダルク」初の著書

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