子供が病気に。その時、働く親は…圧倒的に数が足りない日本の保育所について

週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

ベビーシッター, 保活, 保育所, 待機児童, 育児 最初に子供を預けたのは、無認可保育所でした。マンションの一部屋に、十何人の子供達が集まっていました。スタッフの方は親切でしたし、保育士さんは子供達を外にも遊びに連れて行ってくれてましたから感謝しましたが、部屋の中で大勢でいる風景には、少し心が痛みました。

 それは、自分が子供時代に通った保育園と無意識に比較してしまったからです。広いグラウンドがあり、広い部屋があって、開放的だったという記憶でした。

 妻の仕事が急に入り、稽古直前に無認可保育所まで送っていった時のことです。

 ママチャリのチャイルドシートに2歳になったばかりの子供を乗せ、慌てて準備していると、自転車のバランスが崩れ、そのまま、コンクリートの床に倒れました。今でも、思い出すたびに背中が寒くなります。

 まるでスローモーションのように、自転車はゆっくりと倒れていきました。幸い、まずチャイルドシートの枠が床にぶつかり、子供は無事でした。もちろん、子供は大泣きしましたし、僕も心臓が止まるかと思いました。

 そこの保育所は、夜11時までやっていたので、本当に助かりました。ただ、僕と妻の仕事が共に、急に深夜になったらどうしようと考えたことは何度もありました。

 やがて、待機児童の時期を経て、区の認可保育所に入れることになりました。どんなに仕事が不定期かとか、妻と夫がどんなに忙しいか、ちゃんと文章にした方がいいというアドバイスを受けて、そんな手紙を区役所の窓口にも提出しました。

 一番驚いたのは、保育園から「お子さんが熱があるので、お越しください」という電話をもらったことです。ほとんどの子育てを妻任せにしていたので、事態に直面するまで、気付きませんでした。

◆子供の病気 その時、働く親は……

 保育園では、子供が高熱を出すと(38℃ぐらいですか)親に連絡が来て、引き取ることを求めるのです。初めてこの事実を知った時は「えっ!? 子供って、突発的に熱出すし、腹が痛くなるし、そのたびに保育園に行かないといけないなら、仕事できないじゃん!」というものでした。普通の「働く日本人」だと、「すみません。子供が熱出したんで、会社、早引けします」は言えません。言えるのは、「すみません。子供が交通事故で重体で、ICUに入ったんで、病院、行きます」ぐらいでしょうか。熱では言えません。残念ながら、それが日本です。

 でも、保育園は電話します。これは、決して、保育園を責めているのではありません。無認可も認可も、そういうシステムになっています。もし、熱が出てそのまま放っておいて大変なことになってしまってはいけないからです。気がついたら、部屋の片隅で死んでいた、ではシャレになりません。

 ですから、電話します。そして、母親が会社を早引けすることになります。だんだん、上司も同僚も、「一緒に働きづらいなあ」と思うような雰囲気になってしまうのです。『病児保育』という公的なシステムはあります。病気の子供を預かってくれる保育所などです。が、これは、東京だと各区で5か所前後、定員は5人前後です。圧倒的に足りません。

 僕はシングルファザーではなく夫婦でしたから、まだなんとかなりました。2人ともが忙しくてダメな時は、僕が個人的に知っている演劇学生にベビーシッターを頼みました。

 それは僕が人脈ができる仕事をしているからです。もし、ベビーシッターができる人脈もなく、シングルマザーやファザーだったら、ネットでベビーシッターを探すのは当たり前のことだろうと思います。

 この国が、本当に人口減を憂い、日本の国力のために人口を増やそうと思っているのなら、「深夜に子供を預けられる保育場所」「突発的な仕事に対応できる保育場所」「病気になった子供を預けることができる保育場所」を充分な数だけ準備することは急務だと思います。

「ネットで知り合った初対面の人に子供を預けるなんて信じられない」と言える人は恵まれた人です。

 そこまでの財力や体力や思考の余裕のない環境で働いている人は沢山います。そういう人が「安心して子供を育てられる国」にならない限り、この国の人口は減り続けるだろうと思います。

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