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汚部屋の住人は“心の病”予備軍

カビを放置した水回り、ホコリの積もった床、臭う万年床……「男の一人暮らしなんてこんなもの、部屋が汚いくらいで死にやしない」と思うなかれ。カビ毒には致死率50%、発ガン性などの危険なものがあるという。命あるうちにぜひ掃除を! ◆汚部屋の住人は“心の病”予備軍  これまで汚部屋が引き起こす病気のリスクについて見てきた(https://nikkan-spa.jp/651309)。しかしゴミやホコリの下に潜んでいるのは、カビや菌だけではない。“心の病”の兆候すら、そこに現れているかもしれないのだ。 部屋 ハーバード大学の大学院に留学中の男性と付き合っていたエリさん(仮名・26歳)は、彼が一時帰国した際に借りていた部屋に泊まったとき、その汚さに衝撃を受けた。 「滞在して2週間くらいしかたっていないはずなのに、床にはゴミが詰まったゴミ袋や脱ぎ散らかした洋服、食べカスなどが散乱していてまさにカオス! そんな不潔な部屋でも、付き合って日が浅かったこともあり、気を使って『汚い!』と言えず、向こうがヤル気満々だったので、仕方なく……。すごく惨めな気持ちになって、2日後には別れを切り出しました」  しかし、相手はストーカーに豹変したという。幸いにも、留学中でアメリカに戻らなければならない状況によって、長期化は免れた。  また、元カレと10年ぶりに再会したユミさん(仮名・36歳)も、汚部屋に潜む心の問題に直面した。 ガスコンロ「再会して初めて行った彼のワンルームは、吐き気がしそうなほどヤニ臭く、ホコリやゴミで座るスペースもありませんでした。トイレも浴槽もキッチンもカビだらけ。なぜこんな部屋に女性を呼べるのか、まったく理解できない。やんわりと『大家から損害賠償を請求されたらどうするの?』と聞いても、『ヤツらはどうせ敷金以上は取れんのだよ』とか、『汚れているくらいが体に良い。耐性がつくからな』などと上から目線な屁理屈ばかり。そのくせ最近は仕事もなく、パチンコでしのいでいたようです。四六時中、爪を噛んでばかりいる癖も以前よりひどくなっていて落ち着かない。もはや一緒にいても不愉快になるだけだったので、よりを戻すことはありませんでした」 ◆汚部屋の住人は、いつしか器の小さな人間に成り下がる 空き缶 やはり、部屋の荒れ具合は、住人の心の闇を映し出しているのだろうか? 精神科医の春日武彦氏が語る。 「汚部屋からは、単に『汚い』というだけでなく、ある種のヤバさも感じさせます。それは過剰な汚さが、“的外れな肯定”に繋がっているからです」  実は汚部屋の住人たちは、部屋が“汚い”ことを自覚している。 「でも、それを恥じたり、本当の自己嫌悪に陥ったりはしない。ある人はこれでいいと現実を無視している。別な人はこれも個性と合理化している。さらに別な人は笑って済ませられる程度のことと思い込んでいる。そんなわけで、汚部屋の住人たちは、誰が見ても汚い部屋にもかかわらず、甘えと居直りを土台として、現状を肯定しているのです」(春日氏)  つまり、部屋の様子と精神のあり様は相関しているのだ。従って、汚部屋に違和感を覚えない人は、心の病の予備軍の可能性が高い。 「とはいえ、汚部屋の住人たちは自己肯定が強いから、普段は案外そつなく人生をこなしているかもしれません。でも何かのきっかけでストーカー行為のように周囲をドン引かせることをしたり、志を持とうとしても限界を生じたりしてしまいます。結局、甘えと居直りが精神の根底にあるので、汚部屋に馴染んでしまった人は、いつしか器の小さな人間に成り果ててしまうのです」(同) 【春日武彦氏】 精神科医。’51年、京都府生まれ。都立松沢病院部長、都立墨東病院精神科部長などを経て、現在も臨床に携わる。近著に『待つ力』(扶桑社刊) 取材・文/小山田裕哉 黒田知道 田山奈津子 山脇麻生 撮影/落合星文 ― [汚部屋]に潜む死に至る病【6】 ―
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