「性差別野次問題」を、一時の“騒動”で終わらせないために 週刊チキーーダ!(飯田泰之&荻上チキ)緊急調査 vol.5

性差別野次問題 今回の処分と、今後の対応について、各議員はどう思っているのか。アンケートに積極的に回答してきた議員たちの傾向ということでバイアスがかかってはいるが、処分の程度・ヤジ文化のへの評価に違いはある一方で、今回の発言に問題があり、再発防止が必要であるという意見はおおむね一致していた。傾向については、本稿のvol.1にて掲載している。  また、複数議員から、「地方自治法132条・134条に該当する」という指摘も寄せられた。各条の内容は、次の通りである。 第132条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。 第134条 1普通地方公共団体の議会は、この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる。2懲罰に関し必要な事項は、会議規則中にこれを定めなければならない。  最後に、野次とその報道に関わる回答の中からいくつかのコメントを抜粋したい。 ■メディアの方々には、こうしたセンセーショナルな問題が起きたときだけ騒ぐだけでなく、継続的に地方議会をウォッチしていただきたいと思います。ほとんど注目されないことをよいことに、地方政治ではさまざま、おかしなことが行われています。近年では各自治体の議会議員が情報発信にも努めています。こうしたところからでも情報を拾い、話題にしていただければと思います(中野区議・森たかゆき・民主党) ■私は、野次自体は必要だと考えています。議場で登壇する議員は、まともなことばかり言うわけではありません。完全な事実誤認、規則・申し合わせを無視した行動、決着がついた話を何度も蒸し返す、板橋区政と関係ない話を持ち出す、延々続く自慢話……などなど、一言指摘しなければ収拾がつかないことがあります。例えば、事実誤認を何の指摘もなく言わせておいたら、それを聞いている人は「あ、そうなのか」と思ってしまいます。 また「賛同の野次」もあります。私も、会派を超えた賛同の野次を受けたことも何度もあります。こういう雰囲気になれば、政策の実現に大きく近づきます。政治とは言葉だけですべてが決まる世界ですので、言葉によるギリギリのせめぎあいが当然生まれます。おとなしく聞いていればいいなどという甘いものではないことは、ご理解いただきたいと思います。 ただし、野次はあくまで政策を議論するものでなければなりません。人格否定やハラスメントであるような野次は論外です。ここの区別がついていない議員が存在することは私としても遺憾であり、体質の改善を図らなければならないと思います。少なくとも「今の野次は誰だ」と聞かれて「私だ」と名乗れないような野次ではいけないでしょう。(板橋区議・中妻じょうた・民主党) ■今回の件は、都議会のレベルがあからさまになった一件であったと考えます。そして、鈴木章弘議員についてはどのように釈明されても、あの会見を見る限りでは、なぜ謝罪しなければならなかったのかという本質をご理解されてないように感じました。 同時にインターネット社会の中で、情報のコントロールを恣意的に行う方々が本当に多いということも感じました。鈴木議員本人が最終的に認めても、ねつ造をして擁護をしたい方が多くいるということと、塩村議員の過去・経歴については本件とは関係ないのにもかかわらず、持ち出して中傷をしているケースも目立ちました。 また、自民党中央執行部からのなんらかの処分が今後あるのかもしれませんが、離党ではなく「会派離脱」は都民・区民に対してなんの責任も取っていないことを、多くの有権者の方にご理解をいただきたいと個人的には考えています(大田区議・津田智紀・民主党) ■会派は違っても「早く結婚しろよ」とか「子供を産めないのか」など、発言自体を封じようとするものであるとともに、女性を子供を産む道具並みにしか考えない、封建的・動物的で知性も品性もない人間として最低レベルの人物がかくも都議会に選ばれてきていることに心底おぞましさを感じました。視察報告書をねつ造するような人物と言われているが、もともと選民となる資格も資質もない人物と思われ、そのような人間を公認してきた政党の責任が問われる。政党離脱で幕引きは許されない。大山とも子都議に対する自民党議員の「放射能を浴びたほうがいい。正常になるんじゃないか」という野次も本当にひどく、取り上げ、解明してほしい(文京区議・国府田久美子・共産党) ■今回の件を単なるセクハラ野次ととらえるのは、問題の本質をとらえていません。国会の場でも地方議会の場でも“女性の社会進出”“女性の活用”を声高に唱えていますが、そのホンネは今回の野次議員と変わらない議員は国会にも地方議会にもまだまだいるように感じます。つまり、“女性は結婚し、家庭で子供を産み育てる”ことが伝統的な日本の美徳と考えている人たちです。保守系の人に多いです。実際、中央区議会では野次ではなく、委員会や本会議の一般質問において、堂々と「子育ては母親の仕事」といった趣旨の発言をしている議員もいるのです。彼らの考え方をもう変えることは難しいです。これからは有権者が新しいタイプの考え方を持つ議員を選ぶしか方法はありません(中央区議・青木かの・結いの党) ■セクハラ、パワハラなどの野次は、基本的人権の侵害であり、議会制民主主義を否定する絶対に許されないことです。万一、こうした自体が発生した場合は、徹底した調査を行い、議員辞職を求めるなど、議会として絶対に許されないルールを確立することが求められると思います(渋谷区議・田中正也・共産党) ■被害者の女性へのバッシングが起きていること、まさに二次被害。被害を受けた者がバッシングを受けているのはおかしい(参議院・福島みずほ・社民党) ■野次を全面禁止にすべきとは思いませんが、ビデオなどが発達した現代にあっては、野次でさえ、誰がどのような発言をしたのか、記録して情報公開の対象にしてはどうかと思う。どのような野次であれ、安易に懲罰などの対象にすべきではないとは思うが、少なくとも公の議会という場での発言であれば、現代の機器によって、その発言を記録保存しておくことは可能だし、それを情報公開できるはず。今回の一件に関しても、各議員の前に高性能マイクを置いておけば、誰が発言したのかはすぐにわかったと思う(江戸川区議・田中けん・無所属) ■私たちの世代は耐える他ない状況の中で、聞き流してきたが、人権意識も変わってきているのだと感じました(衆議院・女性匿名) ■今回のような野次、発言などは、地方議会では普通にあり得るものだと思う。今までもおそらく都議会でもあったのではないか。今回だけ、メディアがこぞって取り上げるのはどうかと思うが、今回の件をきっかけに改善されていったらいい(女性匿名)  メディアイベント化した本件だが、この出来事をきっかけに、各議会内・各会派内で事例を掘り起したうえで、今後の対応策を丁寧に議論することが求められる。なお、都議会自民党からは、「一括回答」として次のような回答が送られた。 「昨日(編集注:6月25日)、都議会において『東京都議会の信頼回復に関する決議』が、採択されました。都議会自民党としても、これを重く受け止め、二度とこのようなことが起らないよう、会議規則、議会運営ルール等を遵守するなど、都議会の信頼回復と再発防止に向けて、会派をあげて全力で取り組んでいきます」  果たしてこの対応で十分と受け取るか否か。改めて、有権者の側が問われている。 ※今回のこの問題については、週刊SPA!7/22・29合併号(7/15発売)「週刊チキーーダ!」飯田泰之と荻上チキの対談で、さらに掘り下げていきたいと思います。最後に、忙しい中、アンケートに協力してくださった議員の皆さんに、この場を借りてお礼を申しあげておきたい。ありがとうございました――。 <文/荻上チキ>
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