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リコーの「追い出し部屋」無効判決で不利になるのは従業員!?

週刊SPA!連載<第二次正論大戦> ~ 城 繁幸「頭打ち社会への処方箋」 ~ ◆追い出し部屋無効判決から見えてくる“本当の敗者”とは
城繁幸

城繁幸

 リコーで行われていた従業員の配置転換と退職誘導、いわゆる「追い出し部屋」が裁判で無効とされ、その対象となっていた従業員たちが元の職場に戻ることとなったそうだ。  これを受けて、朝日新聞などは「リコーの敗北」と銘打って鼻高々に報じている。まるで、罪のない従業員たちが強欲な経営陣に勝利したと言わんばかりのスタンスだ。  でも現実はそんなに単純なものではない。はたして本当の敗者は誰だろう。  筆者が若いビジネスマンにする最も基本的なアドバイスは「経営的な視点を常に意識しろ」である。別に高いところに上って会社を見下ろせという意味ではなく、一つの数字にこだわりすぎることなく俯瞰的に物事を考えろという意味だ。これは、ビジネスに限らず何にでも応用のきく話でもある。 ◆復職する人を支えるのは従業員たち  さて、その視点から今回の追い出し部屋無効判決を整理してみよう。一見すると従業員たちの勝利、会社の敗北に見えるが、元の職場に復職することになった社内失業者たちのお給料は誰が払うのか。  それは株主でも社長でもなく、ほかの従業員たちだ。会社が用意できる人件費総額は変わらないのだから、ほかの従業員の取り分を減らして社内失業者にまわすしかないためだ。  そういう意味では、敗北したのは、バリバリ働きつつも、仕事のなくなった同僚たちの生活を面倒見るためにカンパさせられるリコーの従業員と言えるだろう。  いや、それでも、リコーのような大企業に入社させてもらえて、終身雇用の恩恵を受けることのできる人たちはまだ勝ち組と言えるかもしれない。当たり前だが、終身雇用というサービスを従業員に提供できるのは、体力のある大企業や官公庁だけだ。そういうところに入れてもらえない圧倒的多数の国民は、終身雇用もない、かといって政府の社会保障もロクに受けられないという放置プレイ状態である。  そういう意味では、いつクビになるかわからないような中小企業でビクビクしながら働いている普通の国民こそ、最大の敗者と言えるかもしれない。  本来なら誰もが公平なサービスを利用できるはずの“社会保障”において、勝ち負けの差があること自体がおかしいのだ。  企業規模によらずに守るべき同一のルールをつくり、そこからあぶれた人の面倒は政府がきっちり見る。それこそ、右左関係なしにこれからの日本が目指すべき社会であるはず。 <処方箋> × 会社は従業員の面倒を見ろ ↓ ○(あぶれた)国民の面倒は政府が見ろ 【城 繁幸/じょうしげゆき】 ’73年生まれ。人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表。『若者はなぜ3年で辞めるのか』(光文社新書)が40万部突破のベストセラーに。最新刊『若者を殺すのは誰か?』(扶桑社)が発売中! ※「第二次正論大戦」は週刊SPA!にて好評連載中
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