日中・日韓を映画で繋いだ俳優・高倉健の偉大さ

 映画俳優・高倉健さん(享年83)への追悼コメントが日本にとどまらず、世界各地から続々と寄せられている。

 マイケル・ダグラス、高倉健共演で注目を集めた「ブラック・レイン」(’89)の監督・リドリー・スコットは、最新作「エクソダス:神と王」(2015年1月30日日本公開予定)のワールドプレミアの席上で「彼はとても優しくて寛大な人だった。懐が深い人で、俳優としてもとても素晴らしい人だった」とその死を惜しんだ(「リドリー・スコット監督、高倉健との思い出を語る…『毎年連絡を取りあう仲だった』」cinemacafe.net、12/5付)。

◆中国外交部が異例の哀悼コメント

 しかし、なんといっても驚きだったのは、中国外交部が日本で報道された直後に哀悼の意を示したことだった。

「中国人民に広く知られている日本の芸術家だった。日中の文化交流の促進に重要かつ積極的な貢献をした」と異例の特別声明を発表した。これは、外交的にいわば緊張状態にあった日中関係をほっとさせる“良い話題”だった。

 今更ながら健さんの影響力の大きさに気付く人も多かったのではないか。

 その国の文化の影響力をソフトパワーと言うが、一人の日本人がこれほどまでに中国や韓国の人々に愛されていたというのは珍しいことだ。

 いずれも映画という世界共通言語のコンテンツを通してだった。

 中国の場合は、’76年の「君よ憤怒の河を渉れ」(中国では’79年に「追捕」のタイトルで公開)、韓国の場合は、「鉄道員(ぽっぽや)」(’99)で人気に火が付いた。

◆中国の人達との魂の触れ合い

単騎、千里を走る

「単騎、千里を走る」

 そこで、ぜひこの機会に中国、韓国をそれぞれ舞台にした健さんの傑作映画を取り上げたいと思う。

 1本目は、中国・日本合作映画「単騎、千里を走る。」(’06)。「初恋のきた道」「HERO」で知られる中国の巨匠・張芸謀(チャン・イーモウ)の熱いラブコールに応えて出演した。

 ストーリーは、中国の舞踊を研究していた息子(中井貴一。声のみの出演)が重病を患い、余命わずかなのを知った父親(高倉健)が、その中断した研究を息子の代わりにやり遂げようと単身中国に渡るというもの。

 健さん演じる父親は、息子の足跡を辿ることで、言葉に不自由しながらも現地の人々と交流し、長い間音信不通で確執のあった息子の「自分と同じ不器用さ」に気付く。旅の目的は、舞踊の名優リー・ジャーミンの姿をビデオに収めることだったが、いつしかそんなことなど忘れ、中国の人達と魂で触れ合うようなエピソードを積み重ね、頑なだったそれまでの心境を微妙に変化させていく……そんな健さんのストイックな佇まいが見所だ。

 その前の出演作に当たる「ホタル」(’01)では、「鉄道員(ぽっぽや)」の降旗康男監督と再タッグを組み、特攻隊のその後という重いテーマにチャレンジした。

ホタル

「ホタル」

 特攻隊の生き残りである山岡(高倉健)は、漁師として妻の知子(田中裕子)と慎ましい生活を送っていた。しかし、昭和が終わり、かつて終戦直後に特攻機で発進するのを止めたことで、命の恩人として山岡を慕っていた藤枝(井川比佐志)が自ら命を絶つ。そして、知子の余命がいくばくもないことを知ると、特攻隊員に“知覧の母”と呼ばれる富屋食堂の主・山本富子(奈良岡 朋子)から頼まれていた、あることを実行に移すという筋書きだ。

 頼まれごととは、戦時中、特攻して散った韓国人・金山中尉=キム・ソンジェ(小澤征悦)の遺品を遺族に届けることであった。

 健さんは、金山中尉の許嫁だった知子とともに韓国に渡る。

◆“沈黙”という国宝級の演技

 どちらの映画にも共通するのは、その健さん演じる主人公が多くを語ろうとしないスタンスだ。

 つまり、それは裏を返せば多くを語りすぎることへの戒めでもある。

 これまでの出演作でも、おおむね寡黙さを旨とし、ほとんど沈黙で何かを表現し尽くすシーンも少なくない。

 特にこの2作では「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」という有名な哲学者のフレーズが当てはまるぐらいの国宝級の演技を見せている。

 しかし、その沈黙があるからこそ、「単騎、千里を走る。」の岩山で子供と迷子になる場面で、急に大をし出した子供を見て「ウンコしてる場合じゃないぞ」と、茶目っけたっぷりに喋るところで笑いが起きる。

 逆に「ホタル」では、遺族の前で金山中尉の遺言を伝え、彼に教わったアリランを歌う場面が涙を誘うのだ。

 この見事なまでの緩急こそが健さんの持ち味であり、隠れたメッセージにもなっているのだ。

 人間の感情の豊かさは、生身の人間同士が出会ってこそ生まれる……。俳優人生をして日中・日韓の懸け橋となった健さんの功績は見逃せないものがある。

 これらの映画から日中・日韓関係の未来を探ってもいいのではなだろうか。 <文/真鍋 厚>

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