デジタル

敏腕クリエイターが「スマホゲーム」に目覚めたワケ

スマホゲーム市場が大きな盛り上がりを見せる中、家庭用ゲームでヒット作や話題作を手掛けたクリエイターたちが、続々と新たなスマホゲームを生み出している。彼らは、どのような理由でスマホゲームを手掛けるのか。最新の注目タイトルを手掛けた、3人のクリエイターに話をうかがった。 ◆名作『moon』を手掛けたスタッフが挑むインディーゲームでの取り組み
木村祥朗氏

木村祥朗氏

 木村祥朗氏は、ひと癖もふた癖もあるキャラと、ユニークな世界観などで人気を博した『moon』や『Chulip』の開発に携わり、近年では『王様物語』などのプロデュサーを務めたゲームクリエイターだ。今、彼がスマホ向きに開発したインディーゲーム『Million Onion Hotel』が、日本最大のインディーゲームの祭典“BitSummit”で二冠に輝くなど、注目を集めている。そもそもインディーゲームとは、大手企業ではなく、小規模のチームや個人で開発したゲームのこと。木村氏は、「インディーゲームに感動して自分でも作りたいと思った」と語ってくれた。 ――コンシューマーゲームではなく、インディーのスマホゲームを開発した経緯からお聞きしたいと思います。 木村:ある時期、いろいろ嫌になっちゃって、グレ気味というか、エスケープ気味だったんです。でも、インディーゲームのイベントのIGFやBit Summitを経験して、持ち直しました。生々しいフレッシュなインディーゲームを見れば見るほど、「自分はゲームを作るのが嫌いになったわけではない」と気がついて(笑)。そこから、ゆっくり歩み始めた感じです。 ――コンシューマーゲームとインディーのスマホゲームでは、開発するときに何か違いはありましたか? 木村:実は、そんなに違いは無いと思います。結局ゲームを作る過程は、そんなに変わらないんですよね。アイデア考えて、設計して、素材を作って、プログラムを組んで、デバッグを行って……。インディーゲームも同じです。でも、時間配分はかなり違っていて。  通常の家庭用ゲームの制作開始というのは、予算がつくかどうかです。予算がつけば、一日の大半をそのプロジェクトに費やしても生きていけます。  しかし、自分たちのインディーゲーム制作はというと、発売しないとお金になりません。ですから、僕の会社は、昼間の仕事として業務委託とかでゲームのお仕事もしています。その昼間の仕事の儲けで御飯とか、キャベツを食べれるようにしておいて、平日の夜や土日の時間を自分たちのゲーム作りに当てているわけです。  そうまでして、なんで必死になってゲーム作ってるんですかね。あはは。他人から見ると「青いな〜」とか言われそうです。でも、僕らはずっと青春まっただなかだからやむなしです。 ――『Million Onion Hotel』は、BitSummiで2冠に輝いたり、テレビゲームの総合情報誌『ファミ通』のインディー部門で優秀賞に選ばれるなど、配信前から期待が高まっています。これについて、率直な感想を教えてください。 木村:本当ですか? だとするとうれしいです。最近のゲームアプリって、さら~っと登場して、さら~とダウンロードして、さら~っと遊んで、さら~っと捨てられるじゃないですか? 無料だからなのか、ネタゲームだからなのか。理由はいろいろでしょうけど、なんか昔は商品を買うまでも、情報を見たり、楽しみにしていましたよね。そういうのよかったな~というのがあります。  だから、僕はある種の層にむけて、完成するまで「こんなおかしなゲーム作ってますよ~」、「配信するまで楽しみにしててね~」というの、かもしだしながらやっていきたいと考えています。イベントに出展するのもそういう気持ちの現れです。突然「今できました! DLしてください!」というよりも、お客さんといっしょに完成を楽しみにする感じだといいなぁって。  当然、僕はその裏で、ゲームをよくするために、もがくわけですが(苦笑)。まぁ、それは、いいんじゃないっすかね。みんなでじわ~っと楽しみましょうよみたいな。仕事上のしょうもないプレッシャーより、お客さんに期待されるプレッシャーってありがたい話ですから。友人やファン、誰かの“期待”があるとするならば、自分のコンディションにいいような影響がくるように、精進したいと思います。がんばります。 ――『Million Onion Hotel』のどういった点が、プレイされた方々に受け入れられていると分析されていますか? 木村:分析ですか(笑)。分析とかしてないっす! “分析”とか“論理的”とか、もうその手の説明的な事柄は。僕の中ではやる必要ないのでやってないですね。ただ、これは言えるかもしれないです。このゲームはとても個人的な作品です。“僕のポエム”みたいなものですから、もしこのゲームを受け入れてくれる人がいるとすると、その人たちは多分僕が好きなものと同じものが好きな人なんだろうな~くらいでしょうか。もともと、万人に受けようと思っていない内容なので、それでもし誰かが好きと行ってくれれば、それだけで貴重なんです。 ――『Million Onion Hotel』を開発するにあたり、木村さんはファンのことを意識しましたか? 木村:なんていうか、ターゲットを意識して作ろうみたいな商業的なアプローチはやってないっすね。ファンじゃなくて、意識してるのは常に自分。「本当に自分が好きなものは何?」。これに集中してます。  でも、そうやって集中していると、いつの間にか、そもそも昔の『moon』や『Chulip』の時代にあった、過去の自分の好きなものを再発見してしまって、「あ」となることも多いです。過去の自分もやはり自分ですから、もし昔から僕のゲームを見てる人たちがいたら、いっしょに喜んでくれるかもしれません。 ――『Million Onion Hotel』はのぞきみクラブの施策を行っています。この施策が生まれた経緯、実施してみた手応えを教えてください。 木村:のぞきみクラブは、「このゲーム好きな人は、作ってる過程もいっしょに楽しみましょう。ちょっとのぞきみしませんか?」っていう狙いでやり始めた感じです。発売予定日や最新の製作中のドット絵を見たい人にだけ見せる感じですね。  その秘密で届いたメールをほかの人にみせたり、ツイッターで投稿してもらっても、別にかまいませんが、とにかく、気にしてくれてる人に第一報を伝えようという考えで始めました。ウェブや雑誌よりも情報を早く出しちゃいます。  のぞきみ執事チン・ポンチからこのゲームの情報のお手紙を出すわけでが、なかなか楽しいです。SNS全盛の時代に、えらいオールドスタイルな拡散しにくい感じの方法論ですが、そこがおもしろいというか、秘密クラブっぽくて嬉しいというか。閉じてるからこそ、わくわくするというか(笑)。  最近はのぞきみ執事宛のメールアドレスも公開しまして、返信できるようにしてみました。いろいろご意見いただけて、すごく楽しいんです。いい感じじゃないですかね。本当は宣伝的に言えば、これを広げていく方法を考えないとですけど、ゆっくりやりましょうかね。なんせ、秘密クラブですから。
Million Onion Hotel

Million Onion Hotel

――今後、木村さんがスマホゲームで挑戦したいこと、行ってみたい施策を教えてください。 木村:いつか昔スタイルのクオータービューの歩き回るゲーム。『moon』や『Chulip』みたいなアドベンチャーゲームを作りたいなぁ~といううっすらした想いがあります。アプリでもいいし、PCでもいい。コンシューマー機でもいいです。でも、あの規模の箱庭用のゲームだと、ちょっと人数もお金もいります。僕らだけじゃ無理なんで、コラボしたりしないといけません。コラボ相手は募集中でございます。 ――木村さまにとって、インディーのスマホゲームはどのような存在でしょうか。『Million Onion Hotel』の開発前と開発後で認識がかわったことなどありましたら教えてください。 木村:以前はエスケープぎみだったのだけど、最近は気持ちが前向きです。「もうちょっとゲームを作り続けても、いいのかもしれない」という。小さな灯火が心の底についたことかなぁ。 【木村祥朗氏】 Onion Gamesの代表取締役社長。のぞきみクラブでゲームの情報を公開している。詳細は、http://oniongames.jp/milliononionhotel/jp/ 【Million Onion Hotel】 ランダムに生えてくるオニオンをタップしたり、タップした場所で縦、横、斜めのラインを作ってハイスコアを目指すパズル&ポエムゲーム。 取材・文/黒田知道 (C)Onion Games All Rights Reserved.
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