ベストセラー作家の弟子、という生き方

霜田明寛君

水野敬也氏の弟子、霜田明寛君。弟子入り前に『パンチラ見せれば通るわよっ! ―テレビ局就活の極意―』などの著作がある。

 時代遅れな印象がある「徒弟制度」。大相撲や落語の世界なら、まだ珍しい話ではないが、出版界でも作家が弟子を取るというケースがある。

 今年の春、『夢をかなえるゾウ』で知られるベストセラー作家・水野敬也氏の下に、26歳の若者が弟子入りした。彼の名は霜田明寛君。果たしてベストセラー作家の弟子とは、どのような生活なのか、彼に聞いてみた。

「僕の上には5人の兄弟子がいます。『アトリエ』と呼ばれている水野さんのオフィスにだいたい毎日13時頃に出向いて、そこで企画書を書いたり、原稿を書いたりといった自分の作品づくりを22時頃までしています。『僕のお手伝いではなく、自分の作品をつくりなさい』というのが、水野さんの教えで、僕の書いた原稿に対して指導をしてもらったり、逆に水野さんの原稿に対してコメントをさせてもらったり、ブレストに参加させてもらったりして、勉強させてもらっています」

 普通、「師匠と弟子」というと非常に厳しい上下関係をイメージするが、「水野さんは僕たちが気を遣わないように、気を遣ってくれる」そうで、厳しく怒られたのも1回のみだという。

「弟子の仕事としては、掃除と洗濯、それに週1回、夕食をつくるというものがあります。水野さんも週1回は夕食をつくってくれるので、厳密には弟子のみの仕事というわけではないのですが、僕は料理をほとんどつくったことがなくて。ある日、味噌汁を出したところ、水野さんから『マズい! どうやってつくったの? 出汁は入れた?』と聞かれまして。僕は出汁入りの味噌を溶いてつくっていたので、そのことを告げると『出汁からつくらなきゃダメだよ!』と、僕の料理の下手さに溜まっていたものがあったらしく、その後、お説教されました。でも、それが唯一の怒られた経験で、本当にありがたいかぎりです」

 実はこの夕食の模様は毎日19時30分から「水野敬也のアトリエごはん」というタイトルでユーストリーム配信されている。ある日、夕食時に話が盛り上がり、「この模様を配信したら面白いかも」と思いつきで始まったらしいが、「ユースト配信が始まってからは、面白いことを言わなくてはいけないという意識が高まり、メシの味が感じられなくなった」(霜田君)とのこと。おそらく、これも師匠が弟子に課している修業の一貫なのだろう。

 ちなみに弟子なので当然、無給。霜田君はどのように生計を立てているのだろうか。

「今は、塾講師のバイトを週2回してギリギリの生活をしながらアトリエに通っている状態ですが、打ち合わせに来られた編集者さんから『君たちは水野さんに毎月いくら払っているの?』と聞かれることがあります。確かに、ベストセラー作家の近くにいて、講評をもらいながら勉強できるなんて、普通ならお金を払ってもなかなか経験できることではないですよね。水野さんの目標は『ピクサーみたいな組織をつくること』だとお伺いしています。ピクサーはジョン・ラセター監督がトップですが、ほかの監督の作品もヒットを飛ばしている。水野敬也という作家の作品じゃなくても、『水野オフィス』の作品はヒットする、という状態にすることが師匠の目標なので、僕も早くそのお役に立てるようになりたいです」

 実は霜田君は、弟子入り前に2冊の本を出版している。だが、本人曰く「鳴かず飛ばず」の状態だったが、入門から5か月で書籍の企画が通り、現在は鋭意原稿を執筆中。3冊目の本をヒットさせて、師匠の恩に報いることができるだろうか?

取材・文/日刊SPA!取材班

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