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平山夢明「季節の変わり目には前衛芸術的なパフォーマーが続出する」

◆季節の変わり目には、とかく前衛芸術的なパフォーマンスに及ぶ人々が続出するものである カラスあげ 先日、どうしても物が書けなくてクサクサしていたので明けたばかりの公園をウロウロしてますと、スズランテープで縛ったカラスを散歩させているおじいちゃんに出会いました。カラスは五、六歩あるくと逃げだそうとぱたぱた羽ばたくのですが、やはりそこはそれスズランテープが肢に絡まっていますから、暫く空中でホバリングをしては足元に落ちる。そしてまたホバリング……をくり返しているのです。あまりの素晴らしさというか、脳捻転を起こしそうな光景に「散歩ですか?」とぼんやりした質問をしますと「違うよ。カラスアゲだよ」と云いました。あ! 凧揚げならぬカラス揚げかと気づき、やっぱり朝起きは三文の得だなあと、うっとりした平山です。みなさん、うっとりしてますか?  先日はタクシーで酷い目に遭いましたが、それもこれもやはり秋だからかもしれません。秋というのは人々の胸に溜まった日頃の鬱憤や虚しさが物凄い勢いで吹き出す季節でもあるからですね。と、それを象徴するかのように公園の入口で子供の自転車を取り上げて乗り回しているうちに泣かせてしまい、それをなだめようと抱いて振り回しているうちに通報されたホームレスンがいまして、パトカーのサイレンが近づくとあれよあれよという間に他のホームレスンも集まり、「旦那ぁ、勘弁してやってくれよ。あいつは良い奴なんだよ。目から牛乳を出せるんだよ」「昔はあいつも俺と同じO型だったんだよ」と口々に嘆願したりもしていました。   また、とても不思議なことなんですが、早朝のホームに白のワンピースに身を包んだ縦から見ても横から見ても六十は軽く越えている少女が現れまして、彼女のいでたちというのが曲がった背中と側面、そしてターバンのようなハチマキにも『血処女』と書かれていたのですね。本人はなにも喋ったり、怒鳴ったりはしないのですが、ただユラユラと揺れながら時折、パンパンと手を叩くだけなのです。最初は文化の日に備えた<ゼンエーゲージツ>的なことなのかなとも思いましたが、チショジョには観客の姿を意識する風は一切なく、ただゆらゆらパンパン、ゆらパンパンな感じでいるのです。忙しい通勤途上のサラリーマンですら、何気なく傍らを通り過ぎようとして、かくかくとたたらを踏んでしまうようなチショジョ。その姿は秋のマツタケそのものと断言しても過言ではないかもしれませんね。と、このような展開になれば先日、聞いたコンビニの衝撃もお話ししないわけにはいかないのです。  先日、知り合いの娘さんが目を真っ赤にして「地獄だわ。地獄……」と泣くので、どうしたのかねウサギさんと尋ねますと高校三年になる彼女はこの前のバイトで、とんでもない目に遭ったというのです。その日、彼女はいつものようにレジでお客待ちをしていますと、ひとりのホームレスンっぽい男がやってきて板チョコを置いたそうなんです。彼女は当たり前のようにレジをピッと鳴らし「92円です」と云ったところ、男は突然、ポケットから取りだした貝殻をザラザラと台に拡げ「コ、コレデコレデ」と血走った目で訴えてきたそうなんです。「え? 困ります」「コ、コレデコレデ」「え、え?」「ナ、ナ!」「えー? えー?」「コレデコレデ」。男は彼女が納得しないとみると更に貝殻を大盛りにしようとポケットから取りだしたそうなのですが、彼女は「いいです」と云うことができずに最後は泣いてしまったと。男はチョコを持って行ってしまったので、後でこっそり彼女がレジに代金を入れておいたということです。「貝で良かった。犬の糞なら失神するところだったね」と云うと彼女は返事をせずにどこかに行ってしまいました。ほんと、最近のギャルもどうかと思いますが面白いモンです。 平山夢明【ひらやまゆめあき】 61年、神奈川県生まれ。10年刊行の長編『ダイナー』(ポプラ社)が、第13回大藪春彦賞を受賞。精神科医・春日武彦氏との不謹慎世相放談『無力感は狂いのはじまり~狂いの構造2』も、扶桑社新書より絶賛発売中! ― 週刊SPA!「平山夢明のどうかと思うが、面白い」 ― イラスト/清野とおる 撮影/寺澤太郎
どうかと思うが、面白い

人気作家の身辺で起きた、爆笑ご近所ホラー譚

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