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解体現場の職人が怯える「レベル1」ってなに?――ソラシド本坊のノンフィクション肉体労働エピソード

過酷な肉体労働バイトのネタが話題となり、「芸人報道」(日本テレビ系列)などでも特集が組まれた吉本芸人・本坊元児が、初の自伝的小説『プロレタリア芸人』を刊行する。麒麟、アジアンなど売れていく同期への羨望と焦り――。 勝負を賭けて上京するも、芸人としての仕事がほぼゼロ。泥や汗、埃やアスベストにまみれながら、壮絶な肉体労働現場で働く彼の日常は、まさに「現代の蟹工船」。そんなリアルでディープな内容から、一部抜粋してお届け! ◆僕たちは使い捨てか 本坊元児 眼前で死亡事故を見た人は転職する、というのを聞いたことがあります。僕は、当事者になる前に辞めなくては、と思うようになりました。実際に危険だと感じたこともありました。  それは二年前の解体現場です。壁に埋め込まれた鉄枠を取り外すというものでした。漫画『シティーハンター』に出てくるような大きなハンマーを渡され、暗い部屋の中、ヘッドライトの明かりを頼りにドカドカと壁を崩していきました。壊したコンクリ片を抱えて暗がりから外へ出ると、ほかの職人たちが僕を指差し、 「レベル1! レベル1!」  と叫びます。ただ事ではない。どうしたらいいか分からず立ち尽くしていると、職長が走ってきて僕にビニールシートを被せました。ビニールシートの中から、「レベル1って何ですか?」と尋ねると、「アスベストだ」と言います。コンクリの裏を見ると、アスベストがびっしりついています。  でも、レベル1でよかった。レベル5でなくてよかった。  家に帰り、アスベスト、スペース、レベル1で調べてみました。  レベル1はトップレベルでした。赤い字で書かれておりました。  市販のマスクしかしてねーよ、死ぬやつだよ、こんちくしょう。  一緒に作業したほかの三人が諦めムードの中、僕はひとり大騒ぎしました。労災病院で調べてもらって、場合によっては大手ゼネコンにひと泡ふかせてやる。  所長は「一日くらいなら大丈夫」と言います。医者でもないお前の話は気休めにもならない。面倒を起こしたくない一心で言っているようにしか感じられない。所長の本性見たり。僕たちは使い捨てか。  しかし、いろいろ調べてみれば、確かに一日くらいなら大丈夫のようでした。諦めムードのひとりが言いました。 「体に害がないのなら、下手に騒ぐのは感心しない。僕だったらひとつでも恩を売っといて、楽な現場を回してもらう方がいい」  染み付いた奴隷の論理をここに見た。  しかし、僕もぼんやり納得して病院には行きませんでした。僕は本当に駄目です。
●肉体労働芸人、ソラシド・本坊を追った実録ムービー「本坊元児と申します」 2/3(火)0:00よりYNNにて配信開始! http://ynn.jp/ 撮影/山田耕司(扶桑社)
プロレタリア芸人

肉体労働現場のリアルでディープなエピソードを詰め込んだ珠玉の一冊

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