東北3県で「被災した文化財」。修復には1000億円、10年以上がかかる

3・11地震によって起きた津波は、沿岸部の文化財にも大きな被害をもたらした。「震災復興」とは、道路や建物だけではない。その地域の文化の復興も重要なのだ。 ⇒【前編】はコチラ ◆すべて修復するには1000億円、10年以上!?  陸前高田市を中心として、岩手県内の被災文化財のレスキュー協力を続けている岩手県立博物館の赤沼英男さんはこう語る。
救出した古文書の安定化処理

写真/岩手県立博物館

「海水に浸かった文化財にはヘドロや塩分などが含まれ、細菌、真菌が繁殖しているため、急速に劣化します。そのため、汚れを落とし、除菌、脱塩を迅速に施す必要があります。これを『安定化処理』と言います。この処理を完了するには約1か月。陸前高田の場合、約13万点が処理を終えました」  例えば古文書の安定化処理の場合、大まかに次のような手順で行われる。水道水で洗浄(刷毛による土砂除去)→次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗浄→水道水で洗浄・超音波洗浄→水道水・精製水で脱塩→超音波洗浄→水分除去→自然乾燥(予備乾燥)→内部土砂の除去→耐水紙・不織布で保護→真空凍結乾燥→消毒(燻蒸)→剥離部の補修→デジタル化→中性紙封筒・中性紙箱での保管。  この安定化処理が終わって、温度・湿度管理された安定した環境で保管しながら、少しずつ本格的な修復に入れるのだという。
救出した古文書の安定化処理

救出した古文書の修復作業を慎重に行う、岩手県立博物館の職員。非常に根気と集中力のいる作業だ

「現在、岩手県立博物館では12人のスタッフで修復作業にあたっていますが、お金も人手も保管場所も十分とは言えません。また、方法論が確立したものから手をつけていて、資料によってはまだ安定化の方法が確立していないものも多い。しかし、この作業が将来同じような災害があったときのマニュアルになる。その意味では、本当の試練はこれからです」(赤沼さん)  国から出ている被災文化財再生予算は、文化庁・復興庁からそれぞれ5億の年約10億円。民間の財団などからも補助金が出ているが、東北3県全体の文化財修復を行うにはまだまだ足りない状況だ。 「東北3県の被害は推計100万点以上。これをすべて修復するにはおそらく1000億円、10年以上はかかるのではないかと思われます」と語るのは、東北各地の博物館と連携して被災文化財の修復活動を行う、東京国立博物館保存修復課長の神庭信幸さん。 「その土地の人々が繋いできた歴史や文化、自然の記憶は、新しい街ができて環境が変わったときに、必ず心の拠り所となる。今救わなければ、後で取り戻そうと思っても取り返すことはできません。その地域の人々にとっては、お金には換えられない大切なものです。道路や街や住宅の復興も大事ですが、文化財を通じた“心の復興”も非常に大事なのです」(神庭さん) 取材・文/北村土龍 写真/陸前高田市立博物館 岩手県立博物館 東北歴史博物館 前川さおり ― 東北3県[被災文化財]を救え!【2】 ―
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