それでもプロレスを続けたいと思っているのか?――女子プロレス“顔面殴打事件”を安川惡斗本人が振り返るvol.3

⇒【vol.2】はコチラ ――試合中、観客のことは意識にありましたか? 安川:最初のほうはあったんです。最初のブレイク後はまだ動けましたし。まだいけるとはずっと思っていた。血の量は、自分ではよくわからなかったです。いま思えば、世IV虎さんはプロレスに戻そうとはしていたと思う。 ――そういう意味での喧嘩両成敗で、一方的に被害者扱いするなっていうことですね。 安川:私も悪かったということですね。 ――映画のテーマも安川選手のプロレス人生も、「逆境から這い上がる」というのがテーマになっています。いま世の中で苦しんでいる人に対して、メッセージはありますか?
安川惡斗

「頭に血が上ってたんで、止めてくれないと終われない状況でした」

安川:それもぜんぶ含めて、映画を観てくれたらなと。「映画を観て、感動しました!」とかいう綺麗事じゃなく、「は? こんなふうになれねぇよ」とかいった不満でもなんでもいいんです。「こういう考えや生き方もあるのか」って映画を観て考えてくれれば、何かの糸口になるんじゃないかなって。クランク・アップ後に2月の試合が大事件になってしまったことで、映画自体もすごく注目を集めてしまいましたけど、もともとは地方を地道に回り、講演会をやろうと思っていたんです。DVD化も当分は考えていないですし、とにかく自分なりに地道にメッセージを伝えていきたいなと思っていて。  ピンチはチャンスじゃないですけどね、今回の試合も含めてマイナスはプラスへ変えることができる。本人の気持ちひとつで、どうにでもなる。それはいろんな経験をしてきた私だからこそ言えることだし、これからも強く訴えていきたいですね。  ボコボコに腫れた安川の顔面は現在も完治しておらず、ガードをつけた状態で取材に応じてくれた。現在はシルエットがぼんやり見える状態だといい、心配された視力は徐々に回復に向かっているとのこと。また、骨折に関しては1か月でくっつくがトレーニングするまでには3か月を要する模様だ。10月をメドに復帰を考えており、その際は肉体改造でムキムキになって登場したいと力強く語っている。 「今回のような一件があり、それでもプロレスを続けたいと思っているのか?」  そう尋ねようと事前には考えていたが、愚問だと思い直してやめた。安川にとっては、2・22の試合すらも今まで乗り越えてきた多くの逆境と同様、人生に深みを与えるスパイスにすぎないのだろう。映画しかり、試合しかり、安川の往生際の悪い生き様は、否が応でも観る者の感情を揺さぶる。  <取材・文/小野田 衛> 【安川惡斗】やすかわ・あくと。1986年、青森県生まれ。日本映画学校在学中から舞台で活躍し、映画、ドラマ、声優活動などで幅広く活動。2011年、出演した舞台を機にスターダムの練習生に。同年、本格派ヒールとしてプロレス・デビューを果たすと、以降は独特の存在感でマット界を賑わす。身長162cm。キャッチ・コピーは「惡の女優魂」。第3代&第5代ワンダー・オブ・スターダム王者。 ●『がむしゃら』 がむしゃら※3月28日より渋谷シアター・イメージフォーラム他で公開 女優・安川結花としても活躍する現役女子プロレスラー・安川惡斗の半生を追ったドキュメンタリー。中学時代にいじめ、レイプ、自殺未遂を経験して人生を諦めかけたところを1人の医師の言葉に救われ、演劇や女子プロレスとの出会いによってようやく自分の居場所を見出したという過去が本人の言葉で赤裸々に明かされる。何度も絶望の淵に立たされながらも決して人生を諦めず、がむしゃらに戦い続ける姿を描き出す。監督は高原秀和。
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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