どうすれば再生回数はアップする? 企業のネット動画制作のウラ側

LUMINEのウェブサイトに掲載されたお詫び文

 JR系の百貨店・LUMINEの春キャンペーンの動画が、女性の容姿や職場での美人の扱いについて描くものだったため「セクハラだ」と指摘され、ネットで炎上。「変わらなきゃ」を謳う動画シリーズだったものの、登場人物が「変わる」前にあっけなく2回で終了し、すぐにLUMINEは謝罪文を出した。LUMINE側は3回目以降は作っていないと説明するものの、続きはちゃんとあったのでは?との憶測を生む結果となった。こうした企業のネット動画に対する取り組みついて、「我々にとっても諸刃の剣」と語るのは広告会社の某営業マンだ。

◆広告会社の営業マンが語る「企業動画」事情

「クライアント企業のメッセージを余すことなく伝えられる点で、ネット動画を作りたい企業は多いです。YouTubeやクライアントのHPで動画を自由に流せるようになったのはいいのですが、残酷なまでに再生回数が出てしまう。関係者皆で必死に観てはカウンターを回そうとするのですが(笑)、それでも限界はある。となれば、我々の責任問題にもなるし、実に難しい。しかしながら、CMよりも長く制作できるし、媒体費を払う必要もないので、重宝しているのも事実です」

 彼が言うように、動画の特性を利用し、世間に伝わりにくいテーマをなんとか伝えようとする企業はある。

 例えば、関西電力は3月下旬に「エネルギー。地球の数字、私たちの数字」を公開。これは、アニメーション「ピクトグラム」を用いて、各国の発電事情や東日本大震災以降の大幅な燃料費の増加が家庭に与えている影響を、身近なお金に換算するなどして紹介した動画である。難しいテーマを身近な話題と親しみやすいアニメーションを用いることで、過疎化しないよう悪戦苦闘している様が伺える。

⇒【動画】「エネルギー。地球の数字、私たちの数字 |関西電力」http://www.youtube.com/watch?v=SsMjgDeg-n8



 このようにネットの普及により、自由自在に動画やメッセージを伝えることができるようになった。原理的にはそうである。しかしながら、「観られる・観られない」はまったくの別物。前出、広告会社の営業マンが嘆く。

「『いいものを作っておけば観られる』ではない“何か”が必要なのでしょう。100%企業の言いたいメッセージにせず、視聴者の観たいものにいかに寄っていくか、そのさじ加減が難しいところです」

◆再生回数を伸ばす企業動画とは?

 そんななか、2014年の企業ネタの動画でもっとも再生回数を稼いだといってもよさそうなのが、サントリーのC.C.レモンのPR動画である「忍者女子高生」だ。女子高生2人が熱海の街中をひたすら追いかけっこするもので、「パルクール」と呼ばれる走り、跳び、登る、回るなど様々なアクションを取るもの。

⇒【動画】「忍者女子高生 | 制服で大回転 | japanese school girl chase #ninja」http://www.youtube.com/watch?v=qHFr1_md3Ok



 2人が城から飛び降りるシーンなどもあり、そのアクションのレベルの高さからYouTubeでは700万回以上再生された。様々なメディアでも紹介されたほか、ハリウッド俳優・ラッセル・クロウは「What? Crazy!!」とツイートした。この動画の制作に携わった博報堂ケトルの石原篤氏に、再生回数を伸ばす動画の作り方について聞いてみた。

 石原氏はまず、アクション俳優・ロイド・ヴァン・ダムが登場するボルボ社の動画を例に挙げる。この動画は、ヴァン・ダムが2台のボルボのトラックの荷台に足を置くなか、少しずつトラックが離れて行き、それに伴ってヴァン・ダムの脚が水平に開き最終的には地面と平行になる様子を描いたものだ。アクションの面白さとCGか否かで議論が発生するなど、ネット上で大人気となった。このCM自体は、“企業の言いたいこと”をどれほど言えているのか?

⇒【動画】「Volvo Trucks – The Epic Split feat. Van Damme (Live Test 6)」http://www.youtube.com/watch?v=M7FIvfx5J10



「あれは、『股を開く』というワンビジュアルの映像を作ることで視聴者を引き込みながら、ボルボのステアリング技術、安定性を語っていますので、言いたいことを100%言っていると思います。ただ、動画では引き込む要素がキャッチーかどうかいうのが最も重要です。私がかかわったC.C.レモンの場合、『元気』や『青春を応援』というブランドの世界観を表現することに徹しました。商品は最後に登場するだけなので、ボルボ的な『ファクトを語っていく』というメッセージは伝えていません」

 要するに、企業が言いたいことを伝えつつも、動画視聴者が引き込まれるような仕掛けが必要だということだ。

「動画のアクセス数を増やす時に重要なのは『○○が××する』を一言で語れるかです。ヴァン・ダムが股を開く、女子高生が忍者になる、ショップジャパンの場合はフレンチブルドッグが料理をする(『フレンチブルドッグ ボブのお留守番クッキング』)――こういった形ですね。こうしてワンワード(OneWord)になった時に、『画』がなくても、『なにそれ?』 と思って観たくなるというパワーがなくてはいけません。かつての主流だった『ストーリーもの』と対極的な考え方ですね。昨今の企業系動画で増えているのは『一ネタ系』です。トヨタのスポーツチューニングブランド『G’s』の動画(『G’s Baseball Party』)で“街の中で野球をする”ものは世界的に話題となりました」

◆ウケる企業動画のカギは「一言に絞れるかどうか」と「PR文脈」

 さらに石原氏は、動画視聴者にリアクションされやすい仕掛けも大事だと続ける。

博報堂ケトル 石原篤氏

「あとはPR的な発想も重要です。ネットニュースだったり、朝の情報番組、まとめサイト、キュレーションメディアで取り上げられること、そして世の中のリアクションを事前に読んでおき、その要素を事前に動画に入れておくのです。『忍者女子高生』の場合は『女子高生』『忍者』みたいに海外でも流通しやすいワードを入れています。あとは、モデルが現役の女子高生プロキックボクサーなのですが、テレビでは『美女アスリート特集』とかありますよね。その“文脈”のキャスティングをしています。ロケ地として熱海を選んだのも、日本のお城、学校、神社、そういった景勝地としてわかりやすいし、動画を観た人から様々なリアクションをされやすい“文脈”を入れたという設計になっています」

 かつて企業が自社の話題を多くの人々に知ってもらうには、広告を出すしか手段はなかった。広告の場合は強制的に見せることが可能だったため、「言いたいこと」を100%出しても構わなかった。

 しかしネット動画の場合は、人々が自発的に動画を再生し、さらにはそれをSNSで「面白かった」などと拡散することにより、ようやく多くの人に観てもらえる。しかしながら、冒頭のLUMINEの件のように内容次第によっては炎上することもあれば、“過疎化”し、まったく観られないこともある。企業がネットで動画を流す場合、「言いたいこと」と「ウケること」の絶妙なサジ加減を見極めてコンテンツを作る必要があるのだ。 <文/中川淳一郎>

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