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「住んでいる街の地方議員の顔、わかりますか?」ジャーナリスト・堤未果が提言

 今年4月に行われた2015全国統一地方選。62市長選の平均投票率は50.53%で、過去最低の投票率となった。政治離れが叫ばれる昨今、総選挙ほどの関心、知名度もないことから、総じて投票率は低くなりがちだ。しかし、「とんでもない。一個人にとっては、国会議員が何をしているかよりも、各自治体の議員の存在のほうが大きいんです。そもそも、住んでいる街の地方議会議員の顔、わかりますか?」と苦言を呈するのはジャーナリストの堤未果氏。
堤未果氏

堤未果氏

「暮らしにかかわること、労働問題は自治体レベルの条例で変えることが可能です。たとえば国民健康保険でいえば、『払えなくてもすぐに保険証を取り上げないでほしい』、『国の方針とは違うけど、地域のために猶予期間を作ってほしい』などと自治体の議員と連携して役所に話すと、特に医療は地方自治体に丸投げになっている部分も大きいので、市区町村の役所の裁量で、『免除期間を伸ばしましょう』ということにもなります。『政治家に陳情するなんて敷居が高い』と感じている人も多いかと思いますが、都議会、府議会の議員レベルだと事務所も持っていないくらいで、すぐに会ってくれます。例えば港区を例に挙げましょう。企業支配が強いイメージが強いものの、白金に住んでいる友人が言うには『港区は住民運動が盛んで、お寺に隣接したマンション建設の反対運動など、各党の区議会議員もしっかり話を聞いてくれる』と。自民、民主、公明と超党派で協力してくれて、運動を成功に導いてくれた成功例もあるそうです。これが国会議員だと、たどり着くまでに時間がかかります。そもそも国政は結論が出るまで長いし、国会の主な仕事は予算編成と法律の立案なので、個人の声はそこまで届きません」  漠然と「国が悪い」と言うだけでは何も解決しない。身近なところから動けることが重要なのだ。 「アメリカの格差問題は、1%の富裕層側の意向が強く働いています。それに対して『1%の力が強すぎて国会では太刀打ちできないから、自分の住んでいる市町村だけでも変えて行こう』とする動きが彼の国では出てきています。いま日本では、国保法の改正という法案が参院で審議されています。これは、医療費が上がっていく始まりとなる、ものすごく重要な法案なんですけど、安保法改正の陰に隠れてまるで報道されていません。自治体に働きかけないで野放しにすると、自治体議員や役所の職員は例え志があっても中央の圧力に対応するしかなくなってしまいます」  住民が束になって、働きかければ下からの突き上げとなって一緒に取り組んでいくことができるようになっていく。議会で質問をしてくれる議員が増えれば、条例ができるかもしれない。 「実はこのあたりのノウハウは、最新刊の『沈みゆく大国アメリカ~逃げ切れ!日本の医療~』に詳しく書きました。アメリカの医療現場でも巨大保険会社の仕組みから抜けて、『必要最低限のキャッシュで治療をしていく』、『顔が見える距離で抱えられる人数の患者さんを治療する』、『病名ではなく人間として患者さんと向き合い人間関係を作っていく』。そういう治療をすることで診療所が地域のハブのようになり、近所の人が集まり、地域医療ができていく。アメリカの医療の現場には、そういう素朴な原点に戻った診療所、医師が増えています。要するに『何かを変えよう』と思ったら、個人で活動して小さな勝利を積み重ねていくことが重要になってきます。だからこそ、個人に近い場所にいる、地方議会議員が誰かは大きいのです」  6/2発売の週刊SPA!「[格差の正体]を暴く!」では、資産、業種、大学など、さまざまな局面で生じる格差の実態に迫っている。特集内では、「超格差社会アメリカは日本の未来像か?」をテーマに堤氏へのインタビューも敢行。1%側が仕掛けるマネーゲームのからくりが解明される。 <取材・文/佐口腎作> 【堤未果/つつみ・みか】 ジャーナリスト、東京生まれ。ニューヨーク市立大学大学院で修士号取得。国連、米国野村証券を経て現職。‘06年『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で黒田清日本ジャーナリスト会議新人賞を受賞。『ルポ 貧困大国アメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞を受賞。
週刊SPA!6/9号(6/2発売)

表紙の人/小嶋陽菜

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