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定額制の音楽配信アプリ「AWA」は日本の音楽市場をどう変えるのか?

 5月27日、エイベックスとサイバーエージェントが共同出資する定額制の音楽配信アプリ「AWA(アワ)」がスタートした。開始から1週間経つがユーザーの評判は好調で、日本の音楽市場における分岐点となるかもしれない。
AWA

「AWA」公式サイトより

 AWAのような「サブスクリプション型」と呼ばれる定額制のサービスは世界で定着しつつあり、その代表格は「Spotify」というスウェーデン発のストリーミング配信サービスである。Spotifyでは3,000万曲以上のライブラリから聴きたい曲を自由に聴くことができ、世間では長らく日本上陸を待ち望む声が聞かれているが、いまだ実現には至っていない。  世界の音楽事情を見ておこう。CDなどパッケージの売上げが市場シェアの8割を占める日本は特例であり、世界では今、iTunesなどで1曲ごとに購入するダウンロード文化から「サブスクリプション型」の音楽文化へと変化しつつある。国際レコード産業連盟の報告によれば、2014年は史上初めてデジタル販売がCDなどの物理フォーマット販売を売上げで抜き去った歴史的な転換期だった。  また、アメリカレコード協会によると、ダウンロード販売の収益は2012年をピークに下落しており、2014年の市場全体に占める割合は前年比で3%減の37%だった。CDなどパッケージの割合も同じく3%減の32%であったが、ストリーミングの収益は6%増の27%と飛躍していることから、世界の流れがわかるだろう。 ⇒【グラフ】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=865178
アメリカ音楽産業の収益(2014年版)

アメリカ音楽産業の収益(2014年版)※アメリカレコード協会(RIAA)の統計調査より

 ただし「Spotify」には批判もあり、その問題点は、コンテンツを提供するアーティストへの収益構造だと言われる。2015年1月現在、Spotifyのユーザー6,000万人のうち有料会員は1,500万人で、全体の75%が「タダで音楽を楽しんでいる」状況だ。昨年末には、テイラー・スウィフトが「無料で音楽を聴く」という風潮を懸念してSpotifyから撤退し話題となった。また、トム・ヨークも「この収益構造だと新人アーティストはロクな報酬がもらえない」と危惧している。  その点「AWA」は有料が基本のサービスであり、月額1,080円のプレミアム会員と機能が制限された月額360円のライト会員に分けられる。利用開始から90日間は無料で体験できるものの、有料で展開する意義はアーティストの楽曲制作を支える上でも大きいのではないだろうか。  サービスもSpotifyに見劣りしていない。流行の曲を紹介する「TRENDING」、ユーザーの嗜好に合った曲をオススメする「DISCOVERY」、ジャンル別の「GENRE」、気分やシーンに合わせた曲が楽しめる「MOOD」、ユーザーが選択した曲やアーティストに似た曲を連続再生する「RADIO」の5つのサービスは「Spotifyのパクりでは?」という声が一部からはあるものの、ニーズを理解していると好評だ。また「アニメ・ボーカロイドのトップ20」など、日本ならではのサービスも盛り込まれている。  最後に、ユーザーの声を紹介しておこう。都内でDJイベントのオーガナイズを手がけるS氏は「AWA」を使ってみた感想をこう説明してくれた。 「有名な曲はだいたい入ってますが、曲数はまだまだこれからに期待です。慣れれば操作性もいいですし、自分が好きな曲を繋げて作ったプレイリストが公開できるから、DJをやりたい人や興味がある人も楽しめそうですね。音質はいいですよ。ただ、外で通信しすぎると速度制限にかかってしまうし、それが嫌で解約する人も出てくるんじゃないでしょうか」  YouTubeやLINEが浸透したことによって、世間ではコンテンツを「無料で楽しむ」スタイルが一般的になっている。日本人のニーズを織り込みつつ“有料であること”を原則とした「AWA」。2015年末までに約500万曲、2016年末までに1000万曲を目指すとしているが、お金を払って音楽を聴く文化は再定着するのだろうか。今後どういった存在となるのか注目したい。 <取材・文/北村篤裕>
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