あえて美女を「チェンジ!」する“チェンジ魔オジサン”の真意とは?

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは自らを饒舌に語るのか』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)などの著作で「性を商品化する」女性たちの内面を活写し注目されている文筆家の鈴木涼美が、「おじさん」をテーマに日刊SPA!で連載する「おじさんメモリアル」第3回!

「おじさんメモリアル」第3回【第3回 チェンジ! YESウィーキャン!】

 若い女というのは世の中で最も愛されるべき存在だと思うのだけど、それなのに、あるいはだからこそ、何かと世間の目は厳しい。おばあさんが地べたに座っててもそんなに誰も批判しないのに、若い女が地べたに座ったらすぐにはしたないってなるし、地下鉄やバスの中でちょっと口紅直したりポッキー食べたりしたら、またすぐに大人たちは品のない非常識なバカなねーちゃんのレッテルを貼ろうと追いかけてくるのだ。電車やバスで加齢臭をふりまくオジサンに、若い女が苦言を呈したら、オジサン泣いちゃいそうなのに、まったく納得がいかない。多分、全てを持っている若い女のパワーに対する、オカネ以外はあんまり何ももっていないオジサンの復讐なのだと思う。

 31歳になると、若い女というレッテルについては果たしてまだ貼って歩いていていいものかどうか微妙なところなのだけど、私もかつて19歳や21歳の正真正銘の若いオネエチャンだった。おっぱいはブラジャーなんてしなくても乳首が水平よりもちょっと上を向いていて、シャワーをすべて弾くほどに肌にはハリがありました。今回は私が21歳の時、ちょうどセクシー女優として活動開始した直後のお話です。

 セクシー女優としてのマネジメントをお願いしていたプロダクションは、女優数人が寝泊まりできる部屋があって、家が遠かったり地方から来ていたりする女の子は、仕事の前日や中日にその部屋に雑魚寝していました。雑魚寝と言っても男の寮と違って、中の上レベル以上くらいの女の子の集まりで、みんなセクシータレントもしくはそのタマゴなので、部屋は高い化粧品とフレグランスと女子とお菓子の匂いで充満していて、なかなか素敵な空間だった。

 私は当時横浜に住んでいたので、朝早い仕事の前日は大抵その部屋に泊まっていて、よく一緒になるお姉さんや女の子とグダグダと喋りながらお菓子を食べたりテレビを見たりしていたのだが、ある日、都内に出てきたついでにちょっと友達と飲みにいって、夜遅くに事務所に到着したところ、初めて見る女の子がプロダクションのロビーのソファでタバコを吸っていた。すっぴんでも明らかに端正な顔立ちが分かるその子は、名前をミカちゃんと言って、おっぱいこそなかったものの、当時の単体女優のなかでも超上玉な感じがした。

「はじめましてー」と私が挨拶すると、控えめに、でもきちんとした態度で、「明日初めてのグラビアの仕事なんです」と挨拶を返してくる。聞けば彼女は私と同い年で、まだAV撮影自体は経験したことがなく、デビュー前の実績づくりのグラビアやイベントの仕事をこなしている最中だった。ちなみに私は大して大物デビューではなかったので、デビュー前はグラビアの仕事を3本やったくらいで、とっとと素っ裸でからみをしていたクチである。

「私もまだ2本撮ったくらいで、新人だよ。それまでは横浜で働いてて。ミカちゃんは今まではどんな仕事してたの?」

「名古屋で、風俗の仕事してました」

「私もそんな仕事もちょっとはかじってみようとしたことあるけど。大変じゃない? AVのが楽しいよね、絶対」

「うん、でもどんな仕事も大変だと思います」

 私はどんな仕事でもブツブツひと通りの文句をぶーたれてから動きはじめるタイプで、恋愛でも仕事でも基本的には悪口と愚痴を口からダダ漏れにしながら続けるので、そんな優等生直球勝負みたいな返答をされて、この子と仲良くなれるかしら、とちょっと不安になった。可愛くていい子で脚が細い。私は唯一勝ってる自分のバストサイズを確かめるように、Tシャツの上から自分の乳を揉みながら話を続けた。

「もうその仕事はやめるの?」

「はい、やめたいと思っていて、ちょうどそのタイミングでスカウトされたんです」

「やっぱり肉体的に辛いから?」

 別に詰問するつもりはなかったのだが、ただの二人きりの空間の空気をもたせるために、私は彼女を質問攻めにしていた。彼女は、肉体的には多少辛くとも、収入はそれなりに納得のいく仕事を真面目に続けていたそうな。しかし、とある事件をきっかけに、どうしても出勤するのが辛くなり、別の仕事の門を叩いたという。事件というのを簡単に言うとこうだ。同地区では最も可愛い子が揃っていると言われる彼女の働いている店では、お客さんとホテルで落ち合って、お店に入室の電話をかけ、オカネをもらうまでにお客さんの希望があれば、仕事キャンセル、もしくは女の子のチェンジが可能だった。しかし、目の前にいる生々しい若い女の子を「いらない」と言う男は少ない。制度としては存在するものの、実際にチェンジする客はほとんどいなかった。

 しかし、ごくたまに、「チェンジ魔」と呼ばれるお客がいて、かなりレベルの高い女の子を派遣しても、入室後、平気で何度もキャンセルする人がいた。何のこだわりか知らないが、たまにそのまま仕事続行となる場合もあるので、店としても利用禁止にするわけにもいかず、客として登録はしていた。しかし、レベルの高い女の子を、そんなリスキーな現場に派遣しては勿体無いので、店の中ではそれほど可愛くない子を派遣して、うまく仕事になればラッキーくらいの扱いをするのが常だったのだという。

 顔面A級のミカちゃんは、当然そんな客のところに派遣されることはなかったのだが、ある日、出勤している女の子の数も少なく、ミカちゃんが「チェンジ魔」のひとりのところへ派遣されるはめに。しかし、自分より全然かわいくない女の子が、「私その人ついたことあるよ」と言っていたので、チェンジになるそれほどの心配はせずに店の車でホテルへ向かった。かわいくない女の子いわく、そのお客は地方局のTVプロデューサーを名乗り、髪を茶髪にそめた40代のオジサンで、ベッドではややSっぽく、一緒にお風呂に入るのを好み、自分が関わった番組などを事細かく説明してくる、いわゆる自慢系の客だという。

 ホテルに着き、指定の部屋の前に髪を整えて立ち、ミカちゃんは部屋のインターホンを押した。ドアを開けた瞬間、勝負スマイルをつくったミカちゃんの目に飛び込んできたのは、かわいくない女の子から聞いていたよりずっと清潔感あるイケメンの茶髪業界人オジサンであった。かっこいい人ではじめまして、といって部屋に入ろうとするミカちゃんを制し、茶髪業界人は「ごめん、今日はちょっとナシにしようかな、ごめんな」と言って、ドアを閉めた。ミカちゃんは目の前で閉まったドアを呆然と見つめ、何が起きたかもわからないまま店に電話をかけ、来た時と同じ車で待機場に送られた。

 若くて可愛いミカちゃんは、リピート指名のお客さんが何人もいて、高額のチップをくれたり、毎回ケーキをもってくるオジサンたちに、「可愛い~愛人にしたい」と甘やかされていた。新規のお客のところに行けば「えー、こんな可愛い子がくるんだ、すごい」と感動され、欠勤の女の子のリピート客のところに代打で派遣されれば、横取りしてしまうこともしばしば。美人の幸運を思いっきり突きつけられる仕事を、それなりの自信をもって続けてきた。

 しかし、とある茶髪のチェンジ魔の登場で、積み重なっていた自信はすべてないものになった。チェンジ、それは一瞬にして「私にはこの仕事は向いていない」「私はブス」という自意識の魔法をかける言葉。というか私はこんな可愛い子を幾ばくかのお札でものにできるのに、それを目の前で断る茶髪業界人が何がしたいのかまったくの謎で、「えーひどいね」「どういう子がタイプなんだろうね」と見当違いの慰めの言葉を彼女にかけて、その日の会話は終わり、お互い明朝の仕事のために布団に入った。

 でも、今から考えてみれば、彼女が可愛くて若くてオジサンたちに甘やかされているような万能女子だったからこそ、チェンジ被害にあったのかもしれない。可愛い子を傷つけたり、虐めたりしてみたいという悪趣味な男の残虐趣味ってある。可愛ければ可愛いほど、もっているものが多ければ多いほど、それをティッシュのようにポイ捨てする俺ってそんな万能女子よりも価値がある……!という高揚感を味わえるのだろうか。こんな可愛い子にいらないって言える俺って、その辺のオジサンよりもずっと贅沢!なんだか自分がすごく立派な男に思えてくる!

 チェンジ、それは女を使ってしか自分の価値を認識できない男の、若くて可愛い子に対する復讐。一時の高揚感のために、一生恨まれる呪文の言葉。

Barack Obama

女の子をチェンジする前にご自分の見た目と自意識をチェンジしていただきたい

<イラスト/ただりえこ 撮影/福本邦洋 写真:AP/アフロ>

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