「設備投資が増加」意外と知らないアベノミクスの実力

連載05【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】

2015年1-3月期のGDPが大幅上方修正

「設備投資が増加」意外と知らないアベノミクスの実力 6月8日に政府が公表した2015年1-3月期のGDP2次速報値は前期比年率3.9%増と1次速報値の2.4%増から大幅に上方修正されました。この改定に大きく寄与したのが、民間企業の設備投資の増加です。1次速報値が0.4%増だったのに対し、2次速報では2.7%増と大幅に増えました。

 投資は比較的好調ですが、消費は前期比0.4%増とあまりいい数字ではありません。これは明らかに消費税増税による消費の落ち込みが影響していると思われます。つまり、今の日本経済は消費の落ち込みを設備投資の増加でカバーしていると言えそうです。

 しかし、なぜ「投資」は増税の逆風を受けながらも増加することができたのでしょうか? これにはアベノミクスの「量的緩和の効果」が大きく作用しています。

アベノミクスによる投資増加のメカニズム

 企業は利益を出すことを目的に活動していますので、企業が投資をするかどうかの最終判断は売上が投資コストや経費を上回るか否かになります。利益が出る見込みがないのに投資しても意味がないからです。

「利益=売上-経費」

 売上を決める要素としてまず考えられるのは、市場の消費需要と製品そのものの性能品質です。市場の「消費需要」が大きければその分商品は多く売れるので、売上も伸び、利益も確保しやすくなります。このことから、「市場に需要が戻らなければ企業は投資をしようとはしない、だから金融政策一辺倒のアベノミクスでは投資は増えない」とか、「政府が直接財政支出を増やして需要を作らなければならない」といったアベノミクスに対する批判があります。しかし、企業が利益を出しやすくするためには、別に政府が直接財政支出を増さなくても、企業の資金借り入れコスト(経費の一部)を抑制することで、企業の投資を促すというアプローチもあるのです。

 資金を借り入れるコストには金利が大きく影響します。政府が金利を引き下げる金融政策を実施すると、銀行の貸出金利が低下します。借り入れる金利が下がると企業が支払わなければならない利払い費は小さくなるので、資金調達コストが下がります。住宅ローンの金利が下がればそれだけローン完済に必要なトータルの返済額が減りますが、それと同じことです。住宅ローンの場合1%の金利差により、トータルで支払わなければならないローン返済金が1割変わってくると言われているので、金利の変化は非常に重要です。このように、金利の低下は同じ数だけ商品を売っても利益を確保しやすくなるので、企業の投資判断を大きく後押しします。

 安倍政権発足後、日本銀行は将来必ず2%のインフレ率を達成するというインフレターゲットを設定し、金融機関から国債を大量に買い上げ、金融機関にお金を大量に供給する「量的緩和」政策を実施していますが、このインフレターゲットと量的緩和の狙いはまさにその「銀行の貸出金利」を低下させることにあります。

 日本銀行からお金を供給された金融機関は必死に誰かに貸し出そうとします。なぜなら金融機関は資金を誰かに貸し出したり、投資したりしてその貸出先からの利息収入を稼ぐことを生業としているからです。日本銀行から供給された現金は何の稼ぎも生み出しません。ただ持っていても意味がないので、金融機関は貸出金利を引き下げるバーゲンセールを行い、なんとか企業にお金を借りてもらおうと働きかけるわけです。結果、企業への貸出が増えて投資が拡大します。

 加えて日銀が2%のインフレターゲットを設定し、将来必ず2%のインフレ率を達成することを強力に訴えています。もし将来的に、2%のインフレが実現すると、今のお金の価値が年2%ずつ減ることになり、一方で同じように借金の価値(負担)も2%減少します。仮に100万円の借金があったとしても、2%のインフレになると一年後にはその借金の実質的な負担は98万円に減ってしまうのです。

 将来インフレ率が2%になれば、その分だけ借金の実質的な負担が減少する。だから、今のうちに借金をして投資しておいたほうが得だということになります。逆に今投資をためらってしまうと、インフレ化に伴う借金の減額の恩恵を受けることができないため損をしてしまいます。これが経済学で言うところの「実質的な金利が低下した状態」なのです。

 企業が将来の景気や、インフレ率を予想することは戦略上当たり前のことです。だから、アベノミクスの金融政策によって今回投資が拡大しました。ただ、中小企業がこのような中長期を見越して投資計画を練ることはなかなか難しいでしょう。しかし、大企業が先行して投資を拡大すれば、中小企業もそれに追従するようになり、大企業の投資そのものが「需要」となるので、その需要が中小企業の投資意欲を刺激することにつながっていきます。

1-3月期の投資が急に伸びたもう一つの要因

 市場予想を大きく上回る1-3月期の投資の伸びは、アベノミクスの量的緩和の効果とは別の要因も絡んでいると私は考えています。その要因とは、昨年度末に自民党が総選挙で大勝利を収めたことによって、安倍政権は長期政権になることが決定的となったことです。これにより、アベノミクスと円安トレンドの長期継続がほぼ確定となりました。

 先ほど企業の投資判断には利益が上げられるかどうかにあると説明しましたが、投資にはさまざまなリスクがついて回ります。日本はこれまで首相がほぼ一年単位でめまぐるしく交代するという、ほかの国ではありえない異常な政治運営をしていました。これでは首相が変わるたびに経済政策の方向性が変わり、企業はそのたびに事業計画の見直しを余儀なくされてしまい、思い切った投資はリスクが大きすぎてできません。しかし、安倍政権の長期政権化がほぼ確定となったため、将来予想が立てやすい状況になりました。その結果が1-3月期の投資の急拡大だったのではないでしょうか。

 この投資の拡大は2015年の1-3月期だけに留まりません。日経新聞の調査によると2015年度の投資計画は2014年度実績より10.5%増える見通しであるとのことです。とくに自動車や電機など製造業が17.3%増とかなりの伸び率です。この調子であれば安倍首相が掲げている年間の民間設備投資70兆円も、らくらく達成できると思われます。

いまだ増税の影響を払拭できず

 投資が比較的好調であることから、昨年実施した消費税増税の悪影響は払拭されたなどと言いだす方が現れてくるかもしれません。しかし、冒頭で述べたようにまだまだ国民の消費マインドは沈んだままです。そもそもの話ですが、昨年の消費増税がなければ企業の設備投資は今以上に大きく膨らんでいたことでしょう。2015年1-3月期のGDP年率3.9%増はあくまで前期と比べた比率であり、民間最終消費支出と民間設備投資の実額(季節調整値)の推移をグラフにするとこのようになります(図1)。

⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=871495

民間最終消費支出と民間設備投資の実額(季節調整値)の推移 まだ消費と投資は増税以前(2014年1-3月期)の水準には戻っていないのです。日本経済は依然予断を許さない状況と言っていいでしょう。

 自民党の総裁は続けて二期(一期は3年)までしか務めることはできませんので(任期延長論が出ていますが)、2018年には安倍首相は退陣となります。そうなるとアベノミクスも終了し、円安トレンドも終焉を迎える可能性が高くなります。昨年の増税ではアベノミクスのお陰で日本経済はなんとか持ちこたえることができましたが、2017年に予定されている消費税10%への増税ではアベノミクスの恩恵はもう受けられず、企業の投資マインドも冷え込むことでしょう。これでは日本経済はまた元のデフレ経済に逆戻りし、失われた20年をさらに更新することになりかねません。

 日本がデフレを脱却し、元の経済成長路線に戻ることができる最後のチャンスがアベノミクスです。まだ低迷している個人消費も企業の旺盛な投資によって刺激を受け、今後改善していくと予想されます。せっかく盛り上がりかけている日本の景気を、再び10%への消費増税で叩き潰すことだけは絶対に避けなければなりません。

まとめ
・2015年1-3月期のGDPは投資の増加により大幅に上方修正
・企業投資が増えたのは量的緩和による「金利」の引き下げの効果、及び将来インフレになれば実質的な借金の負担が減る期待の効果
・1-3月期の急な投資の伸びは、安倍政権の長期化によって企業の投資に安心感が出たため
・投資は好調に見えるが、まだ増税以前の水準に達していない。国民の消費マインドも低い
・去年の増税の傷は癒えていない。10%への再増税など言語道断

【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。4児のパパ

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