感情の爆発こそが女子プロレスの魅力――風香GMが語る「世IV虎引退劇」の真相

⇒ 【前編】はコチラ 風香GM風香:選手間の嫉妬心から、試合がすごく面白くなることもあるし、ガタガタに崩れてしまう試合もある。そこは本当に紙一重なんです。ただ、そういう感情の爆発こそが女子プロレスの魅力なわけですから。その魅力を自分から消し去ることはできませんよ。GMの立場として言えることは、ある程度までは選手間が殺気立っていても結構。でも、あくまでも同じ理想や夢は追っていてほしいんです。ムカつく相手がいるから試合で相手のいいところを消すというのではなく、相手を超えるようなパフォーマンスを自分が試合でしてほしいですし。指導者として“心・技・体”の重要性……フィジカルと同時にメンタルも鍛えていくことが、すごく大事なんですね。特にスターダムは他団体に比べて若い選手が多いので、なおさらです。  ちょっと様子のおかしい選手がいたら、風香はマンツーマンで食事に誘い、悩みを聞くことが多い。こうした繊細なメンタルのケアは、女性同士でないと難しい部分があるのだ。他のアスリートと同様、本来だったらプロレス界ももっと早くこうした内面の問題に取り組むべきだったのかもしれない。さて、世IV虎の問題とも深く関係していると指摘される高橋奈苗の退団についてはどうなのか? 高橋はこれまで現場監督として選手をまとめ上げており、全日本女子プロレス出身ならではの指導力は折り紙つきだった。高橋が去ったあとのスターダム・マットからは、バチバチした試合が消えてしまうのではないかと一部からは心配の声も挙がっている。 風香:これは結果論になるのですが、奈苗さんがいなくなることでスターダムの勢いが止まることはないだろうし、むしろもっといい団体になっていくと思っています。たしかに奈苗さんはものすごい名選手だし、そんな奈苗さんがスターダムからいなくなるということで、私自身も非常に心配していました。だって奈苗さんがケガで離脱した時点では、(岩谷)麻優、(宝城)カイリ、コグマといった選手はまだ全然育っていませんでしたから。ただ頼るべき存在がいなくなった中で、3人が開花した。これは私としても予想外でしたね。試合のスタイルに関しても、奈苗さんがいなくなったことで大きく変わることはないと思う。もちろんケガするような試合は今後避けますけど、いわゆるハードヒットと呼ばれるものは残っていくんじゃないかな。現に先日(6月14日)の後楽園大会も、メインとセミの試合はものすごく激しかったですし。  なおコグマの戦線離脱に関しては、「トラブルとかでは一切ないので、ファンの方も心配しないでいただきたいです」とのこと。家庭の事情が少し絡んできていることに加え、風香から見ると燃え尽き症候群的な部分もあるそうだ。3月末から5月初旬までスターダムでは大会が続き、若手のコグマは試合のほかに雑用や練習にも追われた。怒涛の大会ラッシュも終わりが見えてきたとき、気持ちのやり場が見つからなくなったという。「今後のことはわからないですけど、とりあえず今は休んでもらおうかなという感じですかね」と語る口調からは、さほどシリアスさは感じられない。しかし話が過去の相次ぐ選手離脱について及ぶと、「そこは大きな問題なんです」と一転して暗い表情になる。 風香:スターダムというのは、その名の通りスターへの登竜門的な団体なんですね。ただ、その代償として試合や練習は非常にハード。そこで脱落していく選手も残念ながら過去には多かった。もちろん、これでいいとは思っていませんよ。私個人の考えとしては、選手はそれぞれ個性を持つべきだと思うし、全員がハードな試合をする必要もない。いろんなファイトのスタイルがあっていいはずなんです。そういう意味では、今までのスターダムはプロレスの幅が狭すぎたという反省点がありますね。  現在、風香は小中学生中心のキッズ・レスラーたちにもプロレスを教えている。将来のスター候補たちと直接肌を合わせる中で、ある「変化」を感じるという。憧れの選手像が変わってきているというのだ。具体的には「美少女なのにゴツゴツした試合をする」宝城カイリや愛川ゆず季タイプではなく、「華麗でテクニカルなムーブで魅せる」岩谷麻優タイプが人気傾向。未来のことを真剣に考えるのであれば、ハードな試合一辺倒からは脱却しなくてはいけないと風香は考え始めている。 風香GM風香:旗揚げ当時、私は「プロレス版のAKB48を作る」と言いました。これはつまり1人の絶対エースに頼るのではなく、神7的な存在が複数いて、その下のコも上を目指して輝くことができるという構造。私はすべての選手を大事にしたいし、選手それぞれが夢を見られるマットが理想なんです。今回の世IV虎の件があったからというわけじゃないですけど、今後はさらに選手の精神面をケアする必要があるなと感じています。今までは若手の育成が私の主な役割でしたけど、デビュー後の選手もきちんと面倒を見ていく。選手は若い女の子ですから。  スターダムにおける風香は、セラピストであると同時に教育者でもある。特にデビュー前の若手に関していうと、親御さんから大事な娘を預かる立場として、下手なことは絶対にできない。 風香:こういう仕事だからケガはある程度しょうがないのかもだけど、たとえば東京に来て変な男に捕まったということになったら管理不徹底ということになる。だから「何やってるんだ!」って厳しく注意することもあります。恋愛について口出しするなんて、本当は私だってしたくないですけどね(苦笑)。でも、そういう選手のメンタル面や人間関係もひとつずつクリアしていって、いつかは世界一の団体にしたいと思っているんです。 <取材・文/小野田 衛 撮影/丸山剛史> 【風香】 ふうか。1984年、奈良県生まれ。2004年にJDスターでデビュー。当初は連戦連敗が続いたため、「女子プロレスのハルウララ」と称される。同団体の解散後、自主興行の「風香祭」を開催するかたわら、総合格闘技やシュートボクシングにも参戦。アイドルレスラーとして絶大な人気を誇ったまま、2010年に現役を引退する。現在はスターダムGMとして若手の育成に励む一方、「踊るリングアナ」としても活躍している。 ●スターダム「Galaxy Stars 2015」大会スケジュール 6月20日(土):新木場1stRING 開始6:00PM 6月28日(日):新木場1stRING 開始12:00PM 7月 4日(土):横浜ラジアントホール 開始5:00PM 7月11日(土):新木場1stRING 開始6:00PM 7月19日(日):大阪世界館 開始12:00PM ※詳細はオフィシャルホームページ(http://wwr-stardom.com/)参照
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
おすすめ記事