一杯、2200円…ロンドンで食べた「とんこつラーメン」の衝撃

週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

◆ラーメンブームのロンドンで食べたとんこつラーメンの衝撃

ロンドン そんなわけで、ロンドンにいます。と、書きながら、滞在は一週間ちょっとなので、明日には空港です。4年ぶりのロンドンは、当たり前ですが、変わっている所も変わっていない所もありました。

 変わったのは、完全にラーメン・ブームが起こっていたことです。ラーメン専門店が10軒以上できていました。

 おかげさまで、この出版不況の時代に、発売一か月ちょっとで4刷5万部を超えた(ああ、こんな文章を書けるなんて、読者に感謝)『クール・ジャパン!? 外国人から見たニッポン』にも書いたように、今、外国人の人気の日本食は、「1位・寿司 2位・ラーメン」の順番です。これは、国がやった調査なんですが、民間の調査だと、ラーメンが1位なんてのも普通にあります。もう、「スシ・テンプラ・スキヤキ」の時代ではなくなったんですね。

 というわけで、ラーメン屋さんに行ってみました。

 とんこつラーメン、11ポンドでした。今、ものすごい円安で1ポンド、200円です。つまり、ラーメン一杯、2200円になります。もう、これでどっしぇー!です。餃子3個も頼みました。6ポンド1200円でした。1個、400円の餃子です。またまた、どっしぇー!です。

 運ばれてきたラーメンは、どこから見てもちゃんとしたとんこつラーメンでした。安心して、一口食って、絶句しました。内心は「なんじゃこれはあー!」という絶叫です。その昔、ロンドンでアパート探しをした時、不動産屋さんの「このアパートの3軒となりのフィッシュ・アンド・チップス屋さんは、南ロンドン一美味いんだ」という言葉で入居を決め、住んだその日にフィッシュ・アンド・チップス屋さんに駆け込み、一口、フィッシュとチップスを食べた瞬間に「これで南ロンドン一美味いんなら、南ロンドンの他の店は食い物を売ってるのかあ!?」という内心の絶叫と同じでした。

◆ラブハンドルに表れる食べる喜び

 久しぶりに筋金入りの不味いものを食っている、という感覚でした。

 寿司は、世界で定着したことで、「まがいもの」と「本物」の区別を外国人も知るようになりました。欧米のスーパーに行くと、安い値段で「寿司になろうとしているなにものか」が売られています。それは、「寿司になろうとしている」のですが「寿司」にはなりきれていません。寿司になる途上で倒れたり、旅に出たり、グレたりしたものです。

 一方、高い金を出すと「完全に寿司になって自慢しているもの」に出会うと、欧米人は知りました。彼らから見れば、どっちも寿司ですが、ランクがあることを知ったのです。

 今、ラーメンはまさに同じ道を歩いています。少し前までは、日本のラーメンとして売られていたものは、「ラーメンに変装をしたなにものか」でした。変装は、一口食ったらすぐに見破られました。

 官民ファンドとして設立されたクール・ジャパン機構が、ラーメンの一風堂のロンドン進出に対して融資したという文章を拙著『クール・ジャパン!?』に書きました。

 こうやって、世界の人は、寿司にランクがあるように、ラーメンにも本物と変装があるんだと、徐々に知っていくのです。

 ロンドンの料理の水準は、この10年近くで劇的に向上しました。それは、前回、4年前に痛感したのですが、その勢いは止まっていませんでした。

 実際、10年前に比べて、太ったイギリス人が増えました。食べることに喜びを感じて、デニムのパンツの腰の部分に、ラブハンドルと呼ばれる(抱きしめると、ちょうど手が腰に当たり、ハンドルように触れる、という意味です)お肉の盛り上がりを乗せて歩く人が本当に多くなりました。一瞬、ここはアメリカの街角かと錯覚するぐらいです。

 驚くのは、多くの女性が、その肉を強調する方向で服を着ていることです。ぱつぱつのTシャツとかぴちぴちのブラウスとかで、惜しげもなくラブハンドルのシルエットを見せます。実に堂々としています。その自然さに、思わず、感動したりもします。

 ジャンクで高カロリーのものではなく、本当に美味しいものを食べて太るのなら、ラブハンドルも自慢しするものになるのかなと、ちらりと思いました。

※「ドン・キホーテのピアス」は週刊SPA!にて好評連載中
<Photo by Aurelien Guichard via flickr>

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