なぜオジサンは玄人女とセックス抜きのデートをしたがるのか?

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは自らを饒舌に語るのか』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)などの著作で「性を商品化する」女性たちの内面を活写し注目されている文筆家の鈴木涼美が、「おじさん」をテーマに日刊SPA!で連載する「おじさんメモリアル」第4回!

おじさんメモリアル【第4回 オショックスの残酷な値段】

 先週、歌舞伎町のうなぎ屋でお水系ライターのお姉さんと高いうなぎを食べているときに思い出したのだが、以前Kという男がいて、そいつは新しい女を口説き落としてベッドインまで持っていこうという日は必ずうなぎ屋に連れていくと言っていた。このKという男、現在の見た目は別に鎌倉郵便局に勤めてますとか、葛飾区役所に勤めてますとかいわれてもごく自然ちゃ自然な感じにおさまっているのだが、実は「ロシア風」(と本人が言っているのでそのまま書くけど)の刺青が上半身にところ狭しと入っていて、移動手段はハーレーというなかなかパンチのきいた経営者である。

 私は彼と新横浜のキャバクラで出逢って、それは私が新横浜のキャバクラに勤めていたころだから多分今から9年以上前なのだが、一度お店に指名で来てくれたものの、その後は頑なに「プライベートで会おう」といってくるので私は同伴ポイントにも指名ポイントにもならない時間を彼と過ごす気は起きず、面倒くさくて放置していた。しかし、あまりにしつこくうなぎ屋に誘ってくるので出逢ってすでに2か月くらいたったころに、一度だけ仕事前の時間を利用してうなぎをごちそうになったのである。花火大会がいつだとかそういうことが話題になるような季節だった。

 Kはできればキャバクラ、手っ取り早くはデリヘルなどの風俗で女の子を一度は正規料金で購入し、そこで番号を聞いてはプライベートで会おうとする、いわゆる「玄人好きだけど店は通さない」おじさんである。当然、そのデートはセックスを伴う。ただ、一応プライベートでもそれなりの「報酬」を渡すタイプであると知り、私としてはそれほど嫌悪感を覚えなかった。彼と似た人種に「玄人と無料セックスしたい」おじさんもいて、これは世界にとって有害でしかない。

 私は当初、まだそれほど自分のセックスの価値にわかりやすい値段をつけていなかったので、彼に、キャバクラやデリヘルの女の子とプライベートで会う場合には、オカネをどれくらい払うのか、その料金交渉はどうするのか、などを尋ねた。彼の玄人相手のおきまりデートは、うなぎ屋30分ちょっと、ホテル2時間の計3時間で3万5000円のお小遣いを渡すというものだった。特にレベルの高い女じゃなくても、ちょっとギャルっぽい若い子なら可、という比較的緩め条件らしいので、その安値には目をつぶるとして、彼の中での内訳は、うなぎ5000円(現物支給)、セックス3万円、交通費5000円とのことだった。

 なぜうなぎかと聞けば、若い女の子はうなぎ屋で飲んだりしないので、うなぎ屋に入ったら大人しくうな重を頼み、高級感を演出できるわりに、比較的早く食べ終わり、多忙な彼と女子の双方にメリットがあるという。

うなぎ

早い! 高い! 美味しい!で今のところ、お小遣いデートのベストアンサー

「寿司屋なら2時間、フレンチコースからちょっとその後飲んだなら3時間弱とかさ、こっちも時間ないし、俺は女と飯食べるのに時給は出してやりたくないから、向こうだっておじさんとのご飯は早く終わったほうがいいわけでしょ? ま、同じ3万5000円もらうならホテル直行で2時間かっきりでそれもらったほうがいいって子もいるだろうけど、こっちはそれじゃあプライベートで会ってる情緒がない。ちゃちゃっとウナギ食べてからのホテルなら女の子的にもそんなに抵抗ないみたいよ」

 私はこのKの言葉の合理性とものわかりに結構共感している。おじさんと個人的に会ってデートやセックスをし、オカネをもらう、といういわゆる「直引き」暮らしの女子たちの苛立ちは、「セックスには値段がついてもそれ以外のデートにいくら時間をとられても値段がつけてもらいにくい」ことである。貞操観念の強い、そのお水系ライターのお姉さんにそんなことを言ってみたら、「は?」という顔をされたが、貞操観念が崩壊している私やAV女優や風俗嬢ちゃんたちの一部は、同じ5万円もらうなら4時間のプラトニックデートより30分のセックス……と思ってしまう節がある。

 そしてこの真実に気づかないおじさま方は、ことごとく善意を振りまくふりをして女子たちに激しく面倒臭がられる。

 友人のカオリは「直引き」で月に約120万円の収入を得る。彼女の場合はシンプルで、いかなる月極契約も受け付けず、すべての代金をその日にもらう。お気に入りの綺麗なおじちゃまと、口の臭いおっさんなどによって若干値段のばらつきはあるものの、平均のお小遣い額はオショックス(2時間の食事デートと2時間のホテル)で6万円である。ごくたまに、ちゃちゃっとセックスして1時間で別れる効率的なおじさんもいて、「その場合は5万円でも可」だそうな。交際クラブの初回デートの相場が3~5万円の昨今、結構いい値段だと思う。ちなみに1時間のセックス5万の投資銀行家は、彼女の一番のお気に入りである。

 彼女を悩ませるのはおじさんたちの以下のようなお誘いである。

「明日はちょっとホテル行く時間はないんだけど、よかったら飯どう?」
「会ってセックスっていうのもマンネリだし、たまにはご飯と映画とかどう?」

 彼らはセックスなしのデートを何ら悪気なさそうに提案する。ためしに一度、ご飯と遊園地、というデート話にのってみたカオリは、帰りに渡された金額に愕然とした。彼女は言う。

「1万円だよ? 交通費、とかいって本当に交通費だからね。6時間拘束されて。パチンコ屋のバイトとおなじくらいじゃない? 高くて美味しいもの食べたいとか、まったく思わないわけじゃないけど、別におじさんと食べたくないでしょ?」

 おじさんたちの論理はおそらくこうだ。ご飯を食べたり買い物に行ったりするくらいには僕たちは仲良し。セックスもするけど、そこは一応お小遣いが発生する。セックスがない日は普通にデートして、ご飯を奢って、恋人気分♪

 カオリの論理は違う。普段ご飯2時間ホテル2時間で6万円ならば、ご飯と遊園地で6時間拘束されたら7万円くらいは欲しい。だって彼女にとってはおじさんとのデートはおじさんとのセックスと同じくらい不快だから。べつにアレがアソコに入ろうと入るまいと、恋人気分の代償はしっかり払って欲しいのだ。だって彼女にとっておじさんは、友達でも恋人でもなくお客さんであるのだ。

「いつもご飯つきあってるのは、その後の高額セックスのためなわけよ。どうして私と無料で会えると思うわけ?」

 なかなか俺様な物言いをするカオリ嬢であるが、このような考え方をする嬢は多い。これ、おそらく「非・夜のおねえさん」な女子たちの考え方とは一線を画している。そしておじさんたちは素人女子の考え方をちょっと好意的に解釈して、夜のおねえさんたちを困らせているのだ。

 冒頭のお水系ライターのお姉さんは以前、某男性誌の依頼で「いくらもらったら好きじゃない人とセックスしますか?」と堂々と売春希望価格を聞く街頭アンケートを実施した。

「びっくりするよ。売春系の経験がない女子たちの自らの値段設定は。一番多いのが100万円。グラビアモデルがバック5万でデリヘルで働く時代に。もっさい子でも1億って言ってくる子もいるからね。大手デリヘルに勤めたら、せいぜい2万円クラスの子でも、平気でそういうこと言う。可愛い子で5万とか3万とか答えるのは、明らかに風俗嬢ね」

 彼女たちが実際に売春する日は来ない可能性が高いが、実際にする場面に遭遇したら、希望小売価格の50分の1である自分の身体の値段にびっくりするであろう。しかし、ここで注目すべきはこの続きの話である。

「でもね、じゃあ知らないおじさんとお寿司を食べに行くのに抵抗がありますかって聞くと、高いお寿司なら奢って欲しい~とか言ってくるわけ」

 素人系女子たちは、自らのセックスの値段には自信過剰だが、恋人気分のデートの価格に無頓着である。玄人嬢のカオリは自らのセックスの値段には現実的だが、恋人気分のデートの価格にシビアである。おじさんたちは、この2つの考え方を都合よく混同し、玄人嬢をデートに誘っては嫌われ、素人系女子を5万くらいで抱けると思ってやはり嫌われる。Kのような境地に達しているおじさんは、私の知るかぎり、ほとんどいない。

【鈴木涼美(すずき・すずみ)】
83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。09年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。「身体を売ったらサヨウナラ  夜のオネエサンの愛と幸福論」(幻冬舎)発売中。現在は日経新聞を退社し、執筆業を中心に活動。幻冬舎plusにて「愛と子宮が混乱中――夜のオネエサンの母娘論」(http://www.gentosha.jp/category/aitoshikyugakonranchu)を連載中
<イラスト/ただりえこ 撮影/福本邦洋>

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