【荻上チキの短期集中連載】ルポ・遺体安置所が語りかけるもの vol.2 「見せられない写真」

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◆安置所には、今でも遺体が届き続ける

いくつかの被災場所を案内された後に、僕達が訪れたのは「上釜ふれあい広場」という場所だ。元々は運動場として利用されていた広場だ。震災後、石巻の3番目の遺体安置所となった。

車を降り、安置所の受付で焼香を行い、受付小屋の中を見学させていただく。壁一面には、遺体の特徴を書いた紙がびっしりと貼られている。性別、髪型、身長、体重、発見場所、推定年齢、遺留品、服の特徴などが、マジックの太書きで書き添えられている。遺族は、このわずかな情報を頼りに、身内の遺体を探すことになる。

宮城県警のウェブサイトにも、文書で遺体の特徴などをデータ化している。だがやはり、ネット上には、写真までは掲載できないようだ。そのため遺族は、かすかな手がかりを頼りに、安置所を訪れる。

壁の一部には、3月と4月に発見された遺体のうち、まだ身元が特定されていない方の写真が貼ってある。痣や裂傷がところどころにある、水を吸って膨張した顔が、ずらりと並んでいる。

「4月の下旬以降は、写真掲載がなくなりました」

瀬戸さんが、そう教えてくれる。遺体の発見された時間が遅いほど、損傷具合も激しくなる。あまりに痛ましい姿のため、すべてを掲示することはできないのだという。しかし、掲示されている写真でさえ、既に目を背けたくなるような姿だ。

遺体の特徴や写真は、ブルーのファイルにまとめられている。だが、そこでも写真のところどこが覆い隠されている。破損が激しいため、DNA鑑定の結果が出た後に、遺族だけに見せることになっているという。だが、こちらもやはり、掲載されている写真だけでも、むごたらしい姿が続く。

下肢や頭部が切断されている遺体。火災により真っ黒に焦げている遺体。水を含んで真っ白になっている遺体。裂傷して内蔵がむき出しの遺体。それらの写真が、分厚いファイルで数冊分を埋め尽くす。これ以上の「見せられない写真」とあっては、遺族が見ても判別がつきにくい。

現在では、遺体の発見のピークは過ぎている。だが、今でも週に数体の遺体が、安置所に届く。

8月頃、海水温が暖かくなった際には、海中から多くの遺体が浮かび上がってきた。台風の時期には、気圧の前線が海岸付近に近づいたため、これまた多くの遺体が打ち上げられた。今時期は、建物を再建するためのガレキの撤去作業中に、ガレキの下から遺体が発見されることがしばしばある。今日も取材の直前に、漁業者の網にかかったという遺体が運ばれてきた。

「一瞬のうちになくなった方もいれば、ある程度は耐えたけれど、無念にも亡くなったという方もいます。お顔を見れば、だいたい、わかりますね。亡くなった場所、亡くなり方で、表情が微妙に違う気がします。3月あたりに発見された方は、表情が見れる方が多かったように思います」

◆災害で生まれた、新しい「業務」

瀬戸さんからひと通りの説明を受けた後、いつも一緒に働いているという市の職員の方をご紹介いただいた。鈴木順一さん(42歳)だ。昔は柔道をやっていたという、がっちりした体躯を揺らしながらやってきた順一さんと、ひととおりの挨拶を済ませ、話を伺う。

順一さんから手渡された名刺には、「石巻市役所生活環境部環境課 環境衛生グループ」と記されていた。震災前の通常業務は、斎場や火葬場の業務管理。直接、葬儀や火葬の業務をするわけではなく、事務手続きや職員の管理などが主な仕事だった。

だが震災以降、順一さんは新たな「業務」を担うこととなる。その内容について順一さんは、普段は温和だと思われる顔をしばしば険しくさせながらも、丁寧に教えてくれた。

「震災直後、すぐに上の者から『多くの死者が出た。火葬が必要になる。火葬場が動くのかどうか、確認してくれ』と命じられました。3月11日は友引でした。友引の日は、火葬場も休みで、職員も休み。つまり、普段は職員が全員出払っている日だったので、火葬場の状況をすぐに確認できなかったんです。

火葬場の場所自体は、被災するようなところではありません。しかし当然ながら、火葬には電気が必要です。震災以降は停電が続いていましたから、インフラがどういう状況なのか調べろということですね。

調べてみると案の定、すぐには火葬できる状況ではないことがわかりました。ですからまず、電力会社さんに発電車を持ってきてくれと依頼しました。結局、火葬場が動くようにするために、4、5日かかりました。

その間にも、ご遺体の数はどんどん、どんどん増えていきました。そこでまず、仮安置をする必要がでてきます。当初は石巻の総合体育館に安置所を設置したんですが、体育館のアリーナスペースだと、ご遺体が入るスペースは300体ほど。しかしすぐに、それでは場所がぜんぜん足りないことに気付かされます。

安置所がいっぱいになったら、当然、新たな場所を確保しなくてはなりません。新たな安置所は「旧青果市場」に設置することになったのですが、そこには最大で、1300くらいのご遺体がありました。テントの中に棺がずらっと並ぶ。唖然とする光景です。

これまで火葬に関わる業務は行なっていましたが、よもや、ご遺体を自分たちが搬送するとは思いませんでした。でも、誰かがやらないといけないことです。市なり警察なり、動ける部分が対応しなくてはならない。私どもの課も含めて、応援に来た職員も同じような業務をしました。3月中はかなり困難を極めたし、役所に泊まる毎日が続きました。

すべてが手探りの作業です。わからないことを、県なりに聞くわけですが、県も手探りなのでわからない。結果、どうしても現場主導になるんですね。とりあえず試してみるしかない。これはまずいんじゃないかとなれば、途中で方向変換をする。そういう状況でした」

数多くの死者がでたということは、数多くの遺体と向き合う必要が生じるということでもある。安置所を開設し、そこに遺体を運搬する。棺を調達し、遺体を並べて安置する。遺留品を洗い、遺体の身元を特定するための記録を作り、仮設の献花台で弔いを行う。遺族に必要な説明を行い、火葬のための手続きを行う。火葬場の状況を確認した後も、やるべき「業務」は次から次へと増えていった。

はじめの頃は、棺の調達、人の確保、遺体を並べて安置するという業務で追われた。病院で亡くなった方も多くいるため、遺体を引取り、仮安置する必要もあった。しかし道路の状況が悪いため、1日に十数体しか運べない。

毛布に包まったままの遺体を、3、4人で持ちあげて、ダンプの荷台に積んでいく。5、6体の遺体を積み終えたら、片道1時間弱をかけて安置所まで運ぶ。朝から晩までかけて、病院と安置所との間を3、4往復、計20体ほどを運ぶ。そうした毎日が、10日ほど続いた。

なにもかもが、イレギュラーだった。霊柩車は水没していて使えず、使えたとしても瓦礫の道と膨大な遺体の前に役立たない。遺族に引き取られる遺体は霊柩車ではなく軽トラックの荷台に乗せられ、軽トラはそのまま火葬場に横付けされる。棺が足りないため、火葬をするときにはベニヤ板の上に遺体をあげ、火葬炉に入れる。骨壷が足りなくなれば、なんとか調達に奔走する。

⇒vol.3 「仮埋葬」へ続く(11/13公開予定)

※11月15日発売 週刊SPA!本誌『週刊チキーーダ!」では今回の取材後の荻上と飯田の対談も掲載

【荻上チキ】
1981年生まれ。評論家。
メールマガジン『αシノドス』 編集長(http://synodos.jp/)。ニュース探求ラジオ『Dig』 にて水曜パーソナリティを務める(http://www.tbsradio.jp/dig/)。著書に『ウェブ炎上』『社会的な身体』『セックスメディア30年史』『検証 東日本大震災の流言・デマ』など、共著に『ダメ情報の見分けかた―メディアと幸福につきあうために』など、編著に『もうダマされないための「科学」講義』など。BLOG:http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/

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