【荻上チキの短期集中連載】ルポ・遺体安置所が語りかけるもの vol.3「仮埋葬」

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◆火葬が追いつかない

仮埋葬それでも遺体はどんどん増えていく。自衛隊、警察、消防、そして一般の人々が、次から次へと遺体を運んでくる。しかし、1日で火葬できる数は限られている。石巻市の普段の火葬件数は、一日あたり10件前後。だが、数千体の遺体を前にしては、それではまったく間に合わない。

火葬場をフル稼働させ、毎日20体ほど、普段の倍以上の遺体を焼いた。平時は休みをとる「友引」であっても、関係ない。朝早くから火葬をはじめ、最終の火葬が終わるのが深夜になることもあった。

ここまでしてもなお、火葬が追いつかない。遺体の数が多すぎるのだ。

遺体を安置所に横たわらせたままにしておけば、遺体の状態はどんどん悪くなる。そこで苦肉の策として、3月25日より「仮埋葬」をすることとなった。つまり、火葬の順番が回ってくるまでの間、いったんは土葬をし、後に火葬をできるようになってからまた掘り起こすというわけだ。

仮埋葬には反対の声、抵抗の声もあった。「なんとか家族の遺体を先に焼いてくれ」という声もあった。

「仮埋葬が嫌だということで、ご遺族が自らご遺体を運んで、県外で火葬をしたという方もかなりいます。それも、百何十件という規模で、です。遠いところでは、関東圏域まで行っている方もいらっしゃいました。あとは東北の周辺で、被災のある程度少なかった市町村に行く方が多かったようです。

亡くなられた方には、0歳のお子さんから、80、90歳のお年寄りまで、いろんな方がいます。私にも子どもがいますが、遺体の中に、自分の子どもが通っている学校のジャージを着ている子もいました。そういう光景を見て、動揺しないといえば、それは嘘です。

対応をする側は、同じような説明を遺族全員にするわけです。実に多くの方々に、です。遺族の方もかなり動揺しておりますから、私どもは本来、動揺しないように対応しなくてはなりません。しかし、極めて事務的に対応をこなしているつもりでも、私どもも石巻に住んでいるわけですから、知っている方も遺族として来るわけです。知っている方のご遺体も見ているわけです。

私どもも被災していながら、そういう対応をする。そうした中で、今すぐは十分な火葬ができない、そういう説明をするのは非常につらいものがありました。

職員の中でも、親族や友人が亡くなったり、行方不明になっていたりしている者もいますから、それを考えるとますます他人事ではないんです。辛い業務でした。火葬についての説明だけでなく、全体に言えることです」

◆激務に適応していく職員たち

そんな安置所での激務も、時が経つにつれ、少しずつ落ち着いていく。新しい業務にも慣れ、臨時の職員も増え、遺体の数も徐々に少なくなっていく。

3月25日からは、身元不明であってもいったんは仮埋葬を行った。遺体の損傷が激しいためだ。身元がわかった遺体は、順番に掘り起こして火葬を行う。身元がわからない遺体もそのまま埋葬しておくわけにもいかないため、焼骨にすることになった。

それでも対応しきれない部分については、他自治体の火葬場で焼いてもらうという連携もあった。

「石巻の場合は、東京都さんが手を上げてくださいました。宮城県知事と東京都知事さんが話し合いをして、受け入れをしてくれるということで、300~400体の遺体を東京で火葬しました」

東京都からやって来る4トン車のトラック数台に、ひたすら棺を積む。夜に東京を出て、早朝に石巻に着き、朝の9時から10時頃に出発。夕刻に東京に着くというピストン運搬を行った。



ところで通常、発見された遺体は安置所に運ばれ、検死が行われる。身元が特定できた遺体は、手続きを済ませ、書類を一緒に遺族が引き取る。一度、遺体を安置所から出したなら、再び安置所に戻ってくることはできない。となれば遺族は、自分の家か葬祭業者かに、遺体を運ばなくてはならない。

「ところが警察も、早くご遺体を出したいので、最初の頃はその説明がうまく伝わらないことがあったんです。遺体を渡されれば、当然のことながら『どこさ持っていくべ』となりますよね。火葬の予約がとれるのは3日後。自宅は流されてない。クルマに乗せ続けるわけにもいかない。そこで、遺族の方が途方にくれてしまうんです。

『今、クルマに遺体を乗せているんですが、葬祭業者さんが捕まらないんです』という方もいましたね。最初は本当に混乱していました。結局、葬祭業者さんが決まっている場合は、葬祭会館で火葬までの数日を仮安置する。ご自宅があるのであれば、ご自宅のほうへ一旦お帰りになっていただく。そういう対応に落ち着いて行きました。

時間が経てば、私どもも段々と新しい業務を覚えていく。必要なことが何なのかがわかり、自分の役割がわかっていく。遺族への説明が、15分かかっていたものが10分になったり、必要な説明事項を漏らさないようになったり、お骨をお渡しする時間が短縮されたりしていきました。数をこなすわけですから、早くなって当然です。

はじめは特定の職員しかわからなかったようなことも、時間が経てば、どの職員が出ても、同じような対応ができるようになったりもしました。どんな状況にも、『慣れ』はあるんですね」

多くの遺体がひしめきあう被災地に適応していく職員たち。メディアでは、自衛隊やボランティアなど、支援の現場で活動する者たちの心にかかる大きな負担を心配する記事も多く書かれていた。だが幸いにして石巻の安置所では、職員が次々に倒れるという事態は免れた。

「一時期、新聞にも、かなりの方がストレスのために体調を壊しているという記事が載りましたね。うちにも、倒れらた職員が、女性で1人おりました。ただ、次々に、ということはありませんでした。どういうわけか、みんな体調が崩れなかった。

厳しいことは厳しかったんです。状況は本当にひどかったので、ずっと気を張っていたわけですから。でも、震災後ずっと業務をこなしているうちに、『あのときよりは、いいだろう』という感覚もあったんですね。震災直後は、底を見たような状況ですから、これ以上は悪くはならないだろうと、どこかで思っていたんだと思います。

タフの一言で済むのか、よくわかりません。結構、やんなきゃないんだという環境にあって、なんとかやったんですよね、みんなで」

火葬がひと段落ついたのは、8月15日のこと。それまで毎日のように20数件の火葬を行なっていたのが、15件に減り、10件に減り、ようやく友引の日は休みがとれるような状況になっていった。9月1日以降からは、火葬場は通常の火葬業務に戻っている。

⇒vol.4 「葛藤」へ続く
http://nikkan-spa.jp/89723

※11月15日発売 週刊SPA!本誌『週刊チキーーダ!」では今回の取材後の荻上と飯田の対談も掲載

【荻上チキ】
1981年生まれ。評論家。
メールマガジン『αシノドス』 編集長(http://synodos.jp/)。ニュース探求ラジオ『Dig』 にて水曜パーソナリティを務める(http://www.tbsradio.jp/dig/)。著書に『ウェブ炎上』『社会的な身体』『セックスメディア30年史』『検証 東日本大震災の流言・デマ』など、共著に『ダメ情報の見分けかた―メディアと幸福につきあうために』など、編著に『もうダマされないための「科学」講義』など。BLOG:http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/

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